肺がんになった薬剤師(ぴのこ)が終末期医療を学ぶ

がんサバイバーとして真摯に終末期医療を考える

がん患者におけるせん妄のケア

 名古屋市立大学病院緩和ケア部

 名古屋市立大学大学院医学研究科 精神・認知・行動学分野  奥山 徹先生

 第23回日本緩和医療学会教育セミナーより (1)

 

 せん妄はがん患者において頻度が高く、様々な悪影響をもたらす。身体的原因の同定と除去、非薬物療法薬物療法、家族へのケア等の積極的なマネージメントを要する。予防に関する知見が集積しつつある。せん妄の原因も、せん妄への対応も多面的であり、多職種で取り組むべき問題であり、チーム医療の試金石となる。せん妄を合併しても、ご本人ご家族が安心・安全に適切な医療・ケアを受けられるように取り組むことが大切である。

 

せん妄とは

 

意識障害の原因≪感染、脱水、薬剤、貧血、電解質異常、術後炎症など≫があり

 ⇒脳の機能低下が起こる(意識の混濁)≪認知機能障害・思考障害・集中力低下≫

   →睡眠覚醒リズム障害

   →意欲(・興奮・意欲低下・活動低下) →幻覚(・幻視・幻覚・妄想)

   →感情の問題(・不安・抑うつ・怒り・高揚感)

せん妄のサブタイピングで活動型と低活動型に分けられる。

☆精神症状があれば、常にせん妄を鑑別する。せん妄を見逃して、抗うつ薬抗不安薬を使用すると、悪化する可能性がある。せん妄の中核症状は思考障害、注意・集中力低下⇒それを見落とさないことが大切

せん妄と認知症の鑑別 

 発症様式は、せん妄 急性、亜急性 認知症 慢性

 経過は、せん妄 一過性 、認知症 持続性

 意識は せん妄 混濁 認知症 正常  

 症状日内変動は せん妄 あり(夜間増悪) 、認知症 目立たない     

   

薬剤によるせん妄リスクの調査(Gaudeau,et al.J Clin Oncol 2005)

 対象は261名入院中のがん患者でせん妄を呈した17%の患者の原因を検討した結果、オピオイド抗不安薬ステロイドが有意に関連した。

 ベンゾジアゼピンロラゼパム換算2mg以上)(ハザード比2.04、

 95%CL1.05-3.97、p値0.04) 

 ステロイド(デキサメサゾン換算15mg以上)(2.67、1.18-6.03、0.02)

 オピオイドモルヒネ換算90mg以上)(2.12、1.09-4.13、0.03) 

 抗コリン薬(1.38、0.73-2.60、0.32)  

 

せん妄の治療

 

 まず第一に、

 原因の同定(せん妄がいつから始まったか、その直前の身体的変化、薬物の開始・増量など)と

 対応(身体的要因の除去、原因薬物の中止・変更(苦痛症状の緩和など))を行う。

☆非薬物療法として、

 認知刺激(1日3回、最近の出来事、昔の出来事を話し合う等)

 早期離床(1日3回の散歩、あるいは関節の可動等)、

 視力・聴力サポート(メガネ・拡大鏡・わかりやすいナースコール、使い慣れた日用品の使用等)、

 睡眠覚醒リズム(日光浴や明るい光の利用等)栄養・水分管理があげられる。

薬物療法抗精神病薬

 主たる効果が、

抗幻覚妄想として、ハロペリドール、リスペリドン、パリペリドン、オランザピン、アリピプラゾール、ペロスピロン、ブロナンセリン、

鎮静として、クロルプロマジン、クエチアピン,が使用されている。

 副作用として、重篤なものは悪性症候群、QT延長、致死性不整脈が表れることがあるので、使用前には心電図を確認する。

 糖尿病患者にはオランザピン、クエチアピンは禁忌。 

 ドーパミン遮断ハロペリドール)としてパーキンソン症候群アカシジア誤嚥、   コリン遮断クロルプロマジン、オランザピン)として、便秘、口渇、イレウス緑内障悪化、頻脈、

 アドレナリンα1-遮断(クロルプロマジン)として血圧低下、ふらつき、過鎮静 などがあげられる。

基本方針は抗精神病薬を単剤少量使用、効果を見て増量

 薬剤選択は、副作用プロフィールイレウス:抗コリンは避ける、糖尿病:非定型抗精神病薬を避ける、パーキンソン病:抗力価の薬物を避ける)と

服用方法(液剤、OD錠、点滴用剤等)、

せん妄症状(不穏が著しい:オランザピン、クエチアピンを用いる、低活動型:塩酸ドネペジルやアリピプラゾールが提唱されることもあるが、エビデンスは乏しい)による。

☆せん妄の初期薬物療法の例 

内服可能で糖尿病なし⇒クエチアピン(12.5)1錠眠前

     糖尿病あり⇒リスペリドン液0.5mg 眠前

 内服不可能⇒ハロペリドール0.5A生食100ml眠前 1時間で滴下 寝たら中止

 頓用指示からの開始も可、不眠・不穏時:就寝前と同じものを用意,1時間以上空けて、1日3回までを使用可とする 

終末期のせん妄ケア

 終末期であっても原因によっては改善可能であり採血などの実施を検討する。予後を考えてケアのゴールを話し合う(会話ができるvs苦痛がない等)。

 非薬物療法としては一人の人として敬意を払うケアを行い、薬物療法としては、標的症状を明確にして使用し、不眠、幻覚、興奮などは効果が期待できる。せん妄から持続鎮静への移行はなし崩しにしないようにする。せん妄の回復が困難(原因が臓器不全、脳転移)であれば、苦痛緩和を優先し、患者・家族の意向を把握して判断する。

遺族が医療者に望むせん妄ケア:遺族調査より

 以前と同じように接する(94%)患者が何を言いたいかを理解するよう努める(88%)家族に思いやりを持って接する(86%)日々の起こりうる経過について説明する(86%)患者の主観的世界を否定することなく尊重する(83%)せん妄への対応について家族と相談する(75%)認知症や心の病気ではないことを説明する(72%)家族と共にその場にいる(71%)

せん妄の予防

原因となりうる薬物の減量・中止

 オピオイドは、オピオイドスイッチングやオピオイド以外の疼痛コントロール方法を検討(神経ブロック等)し、ベンゾジアゼピン系薬物は、手術の場合、術前から止めておけるとよく、反跳性不眠に注意する。

特に眠剤について せん妄リスク(高齢、認知症、脳血管障害など)があっても不眠への対応が必要

ラメルテオンはせん妄予防に有効か?(Hatta K,et al,JAMA Psychiatry 2014)

  対象:65歳以上 身体的問題で入院67名

  方法:RCT7日間(一重盲検化)ラメルテオンvsプラセボ

  結果:ラメルテオン群でせん妄頻度減少(3%vs32%)

手術前に抗精神病薬予防内服(Teslyar P, et al.Psychosomatics 2013)

      メタアナライシス、5研究(N=1491)が包含、抗精神病薬群のプラセボに対するリスク比は0.51 (術中の過鎮静に注意が必要)

                               以上です。 

 

 今回はせん妄について深く学ぶことができました。私の実父も頭部外傷による脳出血で長期入院した折、せん妄で皆が悩まされました。確かに夜間がひどく、「家に帰る」と病棟の廊下を走ったりするので、やむなく拘束されていました。その姿を見るのは大変辛かったです。せん妄を克服することができたら、在宅医療の大きな進展につながるのではないかと思います。ラメルテオンやスボレキサントのせん妄予防の効果が早期に実証実用されることを願っています。     

                    ぴのこ拝

 

 

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