肺がんになった薬剤師(masami)がゲノム医療・緩和医療を学ぶ

ゲノム医療は、高校生物の知識が必要で難しいですが、ボチボチ学びます。緩和医療とはがん初期からの緩和ケアを含み、緩和ケア=あきらめ、死ではない。が持論です。所属する学会の許可を得ましたので、学んだことをつたないながら記事にして行きたいと思います。

免疫チェックポイント阻害薬の有害事象

早期発見・早期治療に向けて
国立がん研究センター東病院 薬剤部 野村久祥先生

日本緩和医療学会第23回教育セミナーより (3)

1.免疫チェックポイント阻害薬について

 がん治療の基本戦力は、
①外科的手術②放射線治療抗がん剤&分子標的薬④がん免疫療法 であり、がん免疫療法はがん治療の第4の柱である。
今後多くの疾患で使用されることは必須。

免疫チェックポイント阻害剤 ・PD-1阻害剤、ニボルマブオプジーボペムブロリズマブ(キイトルーダ)
・PD-L1阻害剤 アテゾリズマブ(テセントリク)
・CTLA-4阻害剤 イピリマブ(ヤーボイ)

 免疫チェックポイント阻害薬は一部の症例で効果が出るまでに時間がかかることがあるが、その効果が長く続く症例もある。

2.免疫チェックポイント阻害薬の有害事象マネジメントについて

 免疫チェックポイント阻害薬による有害事象は従来の化学療法とは全く異なり、非特異的に活性化した免疫により引き起こされることから、
免疫関連有害事象(immune-related adverse events:irAE)と呼ばれる。

irAEに対する副作用マネジメントでは
予防➡②予測➡③気付き➡④治療➡⑤監視➡①へ のサイクルが必要

①予防

㋐irAEの発現範囲を知ること㋑危険因子の確認㋒患者や医療提供者への情報提供
 ㋐irAEの発現範囲
  消化器症状・・下痢、血便、激しい腹痛
  内分泌系・・倦怠感、体重減少、吐き気、嘔吐、口渇や食欲不振、多尿
  皮膚症状・・広範囲の皮疹、ひどい痒み
  呼吸器系・・息切れ、咳
  神経系・・頭痛、意識障害、筋力低下、麻痺
  筋肉痛・関節痛、不明熱、出血性症候群、視野狭窄
 ㋑危険因子の確認
  患者や家族の自己免疫疾患の有無
  腫瘍性浸潤の有無
  日和見感染
  併用薬や職業性曝露
 ㋒患者や医療提供者への情報提供
  免疫チェックポイント阻害薬の10%以上の副作用を知らせておく。
  ニボルマブオプジーボ)倦怠感、皮疹、搔痒、下痢、悪心
  ペンブロリズマブ(キイトルーダ)下痢、悪心、搔痒、皮疹、関節痛、倦怠感
  イピリムマブ(ヤーボイ)下痢、皮疹、搔痒、倦怠感、悪心・嘔吐、食欲不振、腹痛


ニボルマブとイピリムマブによるirAEの頻度

ニボルマブ(N=313) All grade Grade 3/4 イピリマブ(N=311) All grade Grade 3/4
全てのAE 99.4% 43.5% 99.0% 55.6%
下痢 19.2% 2.2% 33.1% 6.1%
倦怠感 34.2% 1.3% 28.0% 1.0%
皮疹 25.9% 0.6% 32.8% 1.9%
嘔気 13.1% 0% 16.1% 0.6%
嘔吐 6.4% 0.3% 7.4% 0.3%
食欲減退 10.9% 0% 12.5% 0.3%
甲状腺低下 8.6% 0% 4.2% 0%
腸炎 1.3% 0.6% 11.6% 8.7%
頭痛 7.3% 0% 7.7% 0.3%
呼吸困難 4.5% 0.3% 4.2% 0%
治療中断 7.7% 5.1% 14.8% 13.2%

➡②予測

 免疫治療開始前に、投与中の症状の変化に気が付くために、Base line の症状や検査値を把握しておく
 
Base lineの確認項目・・通常のL/Dセット、Ca、IP、Mg、アミラーゼ、Glu、 HCVHIVスクリーニング、HBs抗原、HCV-RNA定量/リアル、TSH・FT3・FT4、HbA1c、KL-6(TSH・FT3・FT4に異常値があれば事前にコンサルト)・検尿(尿ケトン体)・身体所見:胸部聴診(ラ音の聴取)・DMの既往の確認・甲状腺疾患の既往及び家族歴を確認・排便回数・画像検査(胸部X線、胸部CT)
 免疫治療終了後・・投与終了後、数週間から数か月経過してから副作用が発現することがあるため、本剤の投与終了後にも副作用の発現に十分に注意する。

➡④治療

irAEに対する治療アルゴリズム
 Grade1またはGrade2・・治療は継続し経過観察。必要に応じて支持療法
 1週間以上続くGrade2orGrade3・・倦怠感以外は治療中断、倦怠感➡原因調査、プレドニゾロンの投与(G2:0.5/1.0mg/kg, G3:1-2mg/kg),、内分泌異常:ホルモン補充療法
 Grade4以上・・緊急入院、ステロイド全身投与、輸液など必要な全身治療

3.免疫チェックポイント阻害薬の有害事象マネジメント体制の構築

 外来化学療法ホットライン(電話フォローアップ)を看護師と薬剤師で行い、コンサルト医師を決めておく。

コンサルトタイミングの例

疾患名 コンサルトタイミング
間質性肺炎 IPが疑われる場合(対処:胸部CT画像を放射線科へ➡呼吸器内科医へ)
腸炎・下痢 Grade2発現時(・下痢:ベースラインと比べて4~6回/日の排便回数の増加・大腸炎:粘液便または血便)
1型糖尿病 高血糖又は血糖値の異常(FBS120mg/dl以上または随時血糖200mg/dl以上)・ケトーシスまたはケトアシドーシスの可能性が高く、特に意識障害を認める場合
肝機能障害・肝炎 ・Grade2の肝障害に対して対処したが5~7日を超えて肝機能が改善しない又は悪化   ・Grade3~4に対して対処したが3~5日を超えて改善しない又は悪化


 がん免疫療法は、第4の治療として幅広い疾患で使用される時代になり、今後も多くの疾患で使用されることが予想される。いままでのがん薬物療法の副作用対策は、予防による副作用マネジメントが中心であったが、免疫チェックポイント阻害薬は、いつどんな時にどんな副作用が出るかわからない。そのためにも、早期発見、早期治療につなげられる医療体制を構築することが重要である。 
                          以上です。

 オプジーボが2014年9月に、根治切除不能悪性黒色腫に保険適応されてから、もうすぐ4年になろうとしています。その間に免疫チェックポイント阻害薬は適応範囲を広げ、がん治療の第4の柱に成長してきました。その薬価の高額化の問題もさることながら、irAEや治療のやめどきの難しさ等がクローズアップされています。しかし、治療の2nd line、3rd line として、がん患者の希望の薬であることには間違いありません。すべての患者さんが、有害事象なく安心して使用していけるよう、学ばねばならないと思っています。
                ぴのこ拝

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