肺がんになった薬剤師(masami)がゲノム医療・緩和医療を学ぶ

ゲノム医療は、高校生物の知識が必要で難しいですが、ボチボチ学びます。緩和医療とはがん初期からの緩和ケアを含み、緩和ケア=あきらめ、死ではない。が持論です。所属する学会の許可を得ましたので、学んだことをつたないながら記事にして行きたいと思います。

慢性心不全患者の緩和ケア

国立循環器病研究センター 看護部

急性・重症患者看護専門看護師 高田弥寿子先生

日本緩和医療学会第24回教育セミナーより(4)

Ⅰ.慢性心不全における緩和ケアの動向

 慢性心不全の人口動態は、2025年では120万人/年の罹患者と15万人/年の死亡者数と推測され、予防と終末ケアをしっかり取り組む必要がある。
1年生存率は50-60%、5年生存率は25-30%でがんと同様に進行性の予後不良疾患である。
 
 米国心臓学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)のガイドライン2013年の改定内容では、Palliative Care for Patients With HF として5本の柱が推奨されている
①チームケアの重要性:医師・看護師・薬剤師・介護士・栄養士・理学療法士・医療ソーシャルワーカーの連携
②適切な症状のアセスメントとマネジメント
③心理・社会的苦痛の緩和
④早期からの意思決定支援(ACP:Advance Care Planningの推進)
⑤家族ケア
 
 Early Palliative Careの効果は、進行した転移性がん患者を対象としたRCTでは、早期緩和ケア群は身体機能・メンタル・生命予後すべてを改善したが、慢性心不全患者の生命予後改善効果のエビデンスはまだなく、循環器医の理解を得るためにも必要である。

 疾患別に見た緩和ケアのニーズは、心血管病が38.47%、がんが34.01%、COPDが10.26%となっている。

 厚生労働省は平成29年9月4日、第7回「がん等における緩和ケアのさらなる推進に関する検討会」を開催し、循環器疾患の患者に対する緩和ケアの提供体制の在り方を検討するワーキンググループを設置した。
 それとともに慢性心不全の定義を改定した。
心不全とは、「心臓のポンプ機能の障害により体組織の代謝に見合う十分な血液を供給できない状態」➡「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気

Ⅱ.がんと慢性心不全の相違点

がんと慢性心不全では痛みの軌跡が異なる がんは終末期は1~2か月で急激に体調やADLが低下し、予後予測ができるが、心不全は増悪と寛解を繰り返し、予後予測(終末期の判断)が困難で再発のたびに心機能が低下し、最後は比較的急速である。症候性で、長期による療養行動遵守に伴う苦痛がある。

がんとは異なる心不全患者の病期の認識 心不全患者のほとんどは、病気や予後についての情報をほとんど知らされず、多くの心不全患者は、生命予後不良なことに気づいていない。増悪と寛解を繰り返す特性上、「今回もまたよくなるのではないか」と判断する。

 慢性心不全の緩和ケアでは、緩和ケア、ACPの導入のタイミングが難しい。がんにくらべて、治療の限界点が不明確なことと症状緩和としての治療が最後までActive Careとして残されるため、症状マネジメントが難しい。

Ⅲ慢性心不全における緩和ケアの開始時期

 緩和ケアは患者の苦痛の訴えが生じたときから始まる。意思決定支援は心不全の症状があらわれたときから考慮し、全人的苦痛緩和は苦痛の出現時から行い、悲嘆ケアは終末期が近づいた時期から行う。

Ⅳ.慢性心不全における症状マネジメントのポイントと主要症状のマネジメント

がん・心臓病の終末期における症状発現率

症状 がん(%) 心臓病(%)
呼吸困難 10~70 60~88
倦怠感 32~90 69~82
疼痛 35~96 41~77

呼吸困難・倦怠感・疼痛は非がん患者の50%にみられる3大主要症状である。特に心不全患者は、COPDと同様、呼吸困難の罹患率が高い。ほとんどの患者は、複数の症状を知覚している。

呼吸困難に対する症状マネジメント

`病期 1:症状出現 2:症状安定 3:心機能低下 4:難治性症状 5:終末期
薬物療法(ACE,β遮断薬、利尿) + + + + +
運動療法 + + + +
睡眠呼吸障害(CPAP,酸素) + + +
緊急措置(オピオイド + +
オピオイド抗不安薬)酸素吸入 +

薬物療法
 オピオイドは、モルヒネしかエビデンスがなく他のオピオイドは今のところ使用できていない。モルヒネの作用は、化学受容体の過感受性の軽減による異常換気パターンの改善である。副作用発現最小限で、効果がはっきりと評価できる。経口用モルヒネ2.5~5mg(4時間毎投与)
 
 不安・パニックによる呼吸困難なら長時間作用型ベンゾジアゼピン系薬剤:ロラゼパムなどを用いる。

 経口できなくなると塩酸モルヒネ投与プロトコル(持続静注)
  ①塩酸モルヒネ10mg/日、持続静注開始(eGFR<30ml/分の場合、5mg/日で開始)
  ②呼吸回数10回/分を維持。8回未満で投与量漸減 
  ③安静時呼吸困難感の強い場合1時間量早送り
  ④安静時呼吸困難感が強く、有害事象、傾眠傾向が認められない場合、24時間毎に1.5倍まで増量可
  ⑤最大容量 60mg/日

疼痛のマネジメント:薬物療法

 WHO三段階除痛ラダーのなかで、心不全にはNSAIDsは相対性禁忌(体型貯留による心不全の悪化、腎機能の悪化)三環系抗うつ薬も相対性禁忌である。疼痛が心臓性か非心臓性かを評価する。また神経障害性疼痛、侵害性疼痛、心因性疼痛などの痛みの性質に応じたマネジメントも重要である。

倦怠感のマネジメント、

 倦怠感のマネジメントは、難治性、治療抵抗性で一番治療が難しい。原因を評価する(利尿剤過多、低カリウム血症、睡眠障害、うつ、貧血等)。体液貯留のため、ステロイドや黄体ホルモンは回避する。

まとめ

 慢性心不全の緩和ケアは、心不全の標準的な治療が適切におこなわれていることが前提である。心不全治療と緩和ケアの比重を常に検討し、緩和ケアの目標を患者・家族と共有する。症状マネジメントの際の薬物療法はがんの症状マネジメントに準拠しながらも、病態を悪化させる薬剤があるため留意点を知っておく必要がある。
                  以上です。

 国が在宅(施設含む)を推進している以上、薬剤師としても生き残りをかけて、在宅医療チームの一員として活躍せねばなりません。在宅といってもがんに限らず、いろんな疾患があり、その薬物療法には多種にわたる留意点があります。薬剤師にとって常識なことが、在宅医療にとって非常に重要なポイントであることも起こりうるでしょう。医療分野における変化に応じて、アンテナを張り、常に研鑽に努めることが大事だなと思っています。
                             ぴのこ拝  

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