がん治療が開始され抗がん剤の投与や放射線治療が進む中で、口腔内トラブルが発生することがあります。
口内炎をはじめとした粘膜障害は食事摂取量の減少といった小さな影響から便秘や悪心、その他多くの苦痛症状へ波及します。
*** 発生機序
1.口腔粘膜炎
細胞障害性抗がん剤によるフリーラジカル(過剰な活性酸素)の産生とそれに伴うサイトカインカスケード(細胞シグナルにおいて重要な小さい蛋白が次々に産生されること)による粘膜の直接障害による症状として発現します。分子標的薬による口内炎の機序は、まだ十分に解明されていません。
*** 評価
症状評価は、主としてCTCAE(がん領域の有害事象評価)のGrade分類(1~4)に準じて行われます。
口腔粘膜炎のグレード分類
Grade 1 | Grade 2 | |
---|---|---|
診察所見 | 症状がない、または軽度の症状がある | 中等度の疼痛 |
機能/症状 | 治療を要さない | 経口摂取に支障がない、食事の変更を要する |
その他の症状 | ピリピリ、チクチクした感じ、喉の違和感 | 潰瘍部分のジーンとする痛み、固形物嚥下時の軽度の痛み |
Grade 3 | Grade 4 | |
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診察所見 | 高度の疼痛 | 生命を脅かす |
機能/症状 | 経口摂取に支障がある | 緊急処置を要する |
その他の症状 | 潰瘍部の刺すような強い痛み、唾液も呑み込めないほどの嚥下時の痛み | 鎮痛剤の効果がない強い痛み、全身的な発熱で敗血症の危険性 |
*** 対策
<予防的ケア>
口内炎の発症を完全に抑えるのは難しいですが、口腔内を清潔に保つことは、口内炎の二次感染の予防や重症化を避けることに役立ちます。
・保清(歯磨きによる物理的清掃と含嗽による科学的清掃を実施)保湿(頻回の含嗽、保湿薬や市販の口腔内保湿ジェルを併用)禁煙 を行います。
・治療開始後はアズレンスルホン酸含嗽液などを使用し、含嗽はこまめに行います。口腔内に行き渡らせるようブクブクうがいを行います。
・ヨード含有(細胞障害性がある)及びアルコール含有(粘膜乾燥につながる)の製剤は使用しないようにします。
<Grade 1>
含嗽
・含嗽の継続:アズレンスルホン酸含嗽液を用いる。
・口腔粘膜のターンオーバーのサイクル「2時間程度」を目安に、1日6~8回確実に行う。
<Grade 2>
含嗽+鎮痛薬(+医療用麻薬)
・含嗽の継続:アズレンスルホン酸含嗽液を用いる。
・食前に鎮痛薬(アセトアミノフェン(カロナール®)400~500mg/回若しくはNSAIDs)を使用する。
・食前に短時間作用型の医療用麻薬(例:塩酸モルヒネ水溶液5mg/回)を追加する(内服もしくは含嗽(適応外))
・メソトレキセート若しくはシスプラチンを用いる場合は、NSAIDsの使用は避ける。
<Grade 3・Grade 4>
含嗽+鎮痛薬+医療用麻薬
・含嗽の継続:アズレンスルホン酸+4%リドカイン含嗽液を用いる。
・アセトアミノフェンもしくはNSAIDsの定時内服
・麻薬の効果が短時間作用型で不十分であれば長時間作用型の内服、持続注入も考慮する。
<Grade 1 Grade2 Grade3・4の使用可能な治療として>
・ポラプレジンク(プロマック®)+アルギン酸ナトリウム液(アルロイドG®)(適応外)
・アロプリノール含嗽液(適応外)
・半夏瀉心湯(塗布、内服)(1回2.5g、1日3回)を水50mlに溶解し、口腔内を含嗽
・レバミピド(ムコスタ®)含嗽液(適応外)
・デキサメサゾン口腔用軟膏(ケナログ®)びらんまたは潰瘍を伴う難治性口内炎、舌炎に(カンジダ症がないか確認する)
・エピシル®は、塗布することにより、薄い膜を形成し物理的刺激を避け疼痛緩和をはかるもので、約8時間効果が持続します。
症状の改善が見られない場合は、歯科へのコンサルテーションがなされますが、重篤化した症状へのエビデンスは低く、やはり予防的なケアが重要となります。
食事を工夫して痛みを和らげるのも大切です。薄味にし、室温程度に冷ましたもの、ミキサー食、軽食、とろみのある食事、流動食をとる、酸味(果物など)や香辛料は控えるようにします。
以上です。
鷹野 理 「見えない部位の副作用-口内炎」 CancerBoard Square vol.3 no.1 2017
がん薬物療法副作用管理マニュアル 「口内炎(口腔粘膜炎)」より抜粋しました
ぴのこ拝