肺がんになった薬剤師(masami)がゲノム医療・緩和医療を学ぶ

ゲノム医療は、高校生物の知識が必要で難しいですが、ボチボチ学びます。緩和医療とはがん初期からの緩和ケアを含み、緩和ケア=あきらめ、死ではない。が持論です。所属する学会の許可を得ましたので、学んだことをつたないながら記事にして行きたいと思います。

抗がん剤治療中・後の運動

 がん化学療法中・後の個別の症状に関しては、有酸素運動や筋力トレーニングを実施することが、運動耐用能、倦怠感、免疫機能、不安や抑うつの改善につながるとして、米国がん協会(*1)や日本がんリハビリテーション研究会のガイドライン(*2)で推奨されています。

 運動実施により有害事象を軽減することで抗がん薬治療のアドヒアランス(患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って自ら行動すること)を向上する報告があり、支持療法として期待されています。

 がんサバイバー向けの複数のガイドラインにおいても、週150分程度の有酸素運動など、身体活動量の目標値はあるものの、始めはどのようなステップでも安静から脱却することが推奨されています。

 一方で患者が運動を断念する要因として、心地よくない、体調が悪い、気分が乗らない、人目が気になる、疲れる、忙しいことが挙げられます。特にがん治療中は好中球減少に伴う易感染症、血小板減少に伴う易出血性、心機能障害などに伴う易疲労性など配慮が必要です。

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運動における基本留意事項
・貧血・倦怠感がある場合は症状が改善するまで日常生活を優先して体力を調整する

・骨に問題がある場合はけがのリスクの高いスポーツを避ける

疲労が強い場合は1日10分程度の軽い運動を心掛ける

・末梢神経障害や失調などにより転倒やふらつきの危険がある場合は自転車エルゴメーターなど転倒リスクの少ない運動を選ぶ

・感染リスクに注意する
  ①公共のジムやプールは白血球が安定してから利用する
  ②放射線治療時など皮膚が脆弱な期間はプール(塩素曝露)を避ける
  ③カテーテルや栄養チューブ留置時は水が入り込まないように注意する

・併存疾患がある場合は医師に相談して安全に実施できる活動を調整する

 がんと診断された後の患者が「何かしなければ」と焦る気持ちを持つ場合、運動に気持ちを向けることは、短期的なストレスコーピングの観点からも、長期的な健康増進の観点からも有益です。現行の保険制度化ではがん化学療法導入時に運動指導まで行う人的余裕はありませんが、運動は「始めたいと思った時が最も良い始め時」であり、医療者側から見れば、Face to Faceのコミュニケーションによる運動の推奨は、患者の運動モチベーションの向上につながります。

参考として身体活動におけるエネルギー消費量の表を載せておきます

活動の種類 実施方法 メッツ
安静 横になって静かにTVを見る 1.0
立位で列に並ぶ 1.3
歩行 平地普通歩行 3.0
早歩き(6.4Km/時) 5.0
走行 ジョギング 7.0
ランニング 8.0
水泳 平泳ぎ 5.3
自転車 16.1Km/時未満 4.0
16.1~19.2Km/時 6.8
筋力トレーニン きつい労力 8.0
ほどほどの労力 3.8
階段の上り下り ほどほどの労力 3.8
なわとび 12.3
掃除 掃き掃除・掃除機 3.3
床拭き 4.5
窓ふき 3.2
子供の世話 走り回って遊ぶ 5.8
抱きかかえて移動する 3.0
大工仕事 ほどほどの労力 4.5
きつい労力 6.0
釣り 全般 3.5

(*1)Buffart LM,et al.Cancer Treat Rev 2014;40:327-340〔PMID:23871124〕
(*2)がんのリハビリテーションガイドライン、金原出版2013


華井明子 国立がん研究センター支持療法開発部門/社会と健康研究センター Cancer Board Square vol.4 no.2 2018 より抜粋しました

以上です  ぴのこ拝

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