肺がんになった薬剤師(masami)がゲノム医療・緩和医療を学ぶ

ゲノム医療は、高校生物の知識が必要で難しいですが、ボチボチ学びます。緩和医療とはがん初期からの緩和ケアを含み、緩和ケア=あきらめ、死ではない。が持論です。所属する学会の許可を得ましたので、学んだことをつたないながら記事にして行きたいと思います。

がんの症状対策 胸水

今回はがんの症状対策についてです。
胸水
 は、弾力性のある空気を出し入れする風船のような入れ物です。横隔膜と肋骨にある筋肉の動きで伸縮して、酸素の入れ替えを行います。肺の伸縮を助ける2枚の胸膜のすき間には少量の胸水が貯留しています。
 胸水は、肺の伸縮を行いやすくする”潤滑油”のようなもので大切な働きをしています。この潤滑油である胸水は、血管やリンパ液が胸腔にたくさん流れ込んでは、肺から吸収されます。本来、胸水は、胸腔に必要最低限の量しかたまりません。健康な人で5~10mL程度の少量は存在します。

胸水がたまる理由
血液・リンパ液の流れが阻害されるために起こる胸水
 肺や胸膜・リンパ管にがんができてしまったことで血液やリンパ液の吸収が阻害され、胸腔に貯留し、過剰な胸水となります。
アルブミンの低下が原因で起こる胸水
 がんができると、がんが体の中のアルブミンという栄養分をたくさん使ってしまいます。アルブミンは体の中の水分のバランスを整える働きをしています。アルブミンが不足することで、血管やリンパ管にとどまるはずの水分が、外に出てしまい、胸腔にも流れ込み胸水が増加します。また、肝臓はアルブミンを作る働きを持っています。そのため、がんが肝臓にあるとアルブミンが作られず、胸水が貯留する原因となります。

胸水がたまると現れるつらさ
 胸水がたまりすぎると、肺の潤滑油は薄まり役割を失い、肺の伸縮を助けることができなくなります。一般的に500mL以上貯留すると症状が出現するといわれています。胸水が過剰に貯留すると肺を圧迫し、伸縮を妨げ、酸素の入れ替えが十分に行えなくなります。「息が苦しい・吸いにくい」「胸が圧迫される」「胸が痛い」という感覚(呼吸困難)を生じます。酸素不足により「頭が痛い」「ぼんやりする」「疲れやすくなる」「脈が速くなりドキドキする」という症状も現れます。

胸水がたまったときの治療方法
 胸水が少量増えただけでは呼吸困難は出現せず、治療の必要はありません。呼吸困難が出現して、生活に支障が出るときに治療が必要となります。
1.胸水穿刺廃液・・・胸腔に管を入れ、不要な胸水を体の外に出します。一時的に行う間欠的ドレナージと持続的に行う持続的ドレナージがあります。
2.胸膜癒着術・・・側壁胸膜と胸側胸膜の間に薬剤を注入して胸腔を閉鎖し、再び胸水がたまらないようにします。
3.酸素療法・・・鼻や口から濃度の高い酸素を吸入します。酸素吸入により口や鼻の粘膜が乾燥しやすくなるので、こまめに水分をとったり、加湿をする、リップクリームを塗るなどして保湿を心掛けます
4.薬物療法・・・医療用麻薬’(モルヒネを使用して苦しいという感覚を鈍らせます。

日常生活の工夫・注意点
①呼吸の方法・・・口すぼめ呼吸腹式呼吸を取り入れ、深い呼吸を助け、酸素を効果的に体に入れます。
②体位の工夫・・・椅子に座り前にクッションなどを置いて体を軽く預けます。立っているときには壁に体全体を預けます。頭を20~60度ほど上げて横になります。前かがみになる、両手を上げる動作は肺の広がりを妨げ苦しさを強めるので避けます。
③清潔行動・・・お風呂に入るときには、38~40℃のお湯で半身浴を行います。長風呂や熱すぎるお風呂は酸素消費量が増えて苦しくなるので避けます。背中や足を洗うときは長い柄のブラシを使用して、前かがみや腕を挙げる動作を避けます。歯みがきや身だしなみを整える動作も座って行います。
④食事・・・一回にたくさん食べると胃が張り肺の広がりを妨げます。急いで食べると酸素消費量が多くなり、呼吸困難が出現します。食事は4~5回に分け、消化に良いものをゆっくりと噛んで食べるようにします。ガスがたまるような食事も避けます。
⑤排便・・・排便は一時的に、息を止め、いきむという行為で酸素をたくさん消費する動作です。今までの排便習慣に合わせ、必要時には下剤を使い定期的な排便をめざしましょう。
⑥環境・・・2時間を目安に空気の入れ替えを行うようにしましょう。苦しい時はうちわを使うなどして顔にそよ風を当てるようにすると症状が和らぎます。動くことで酸素をたくさん使ってしまうので、必要なものは自分の周りにそろえるようにしておきましょう。
⑦リラクセーション・・・からだや心が緊張すると浅い呼吸になり、酸素を取り込みにくくします。好きな音楽を聴く、趣味の時間を持つなど楽しい時間を持つよう心掛け、リラックスすることが大切です。

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こんな時は医療者に相談を!
 自宅で、いつも通りの生活を送るためには、日ごろから体調に関心をもち、異常を感じたら無理をせず医療者に相談することが大切です。呼吸困難が強い、安静にしていても苦しい、熱がでる、胸が痛い、脈がいつもより20回/分以上早くなっている、爪や顔の色に赤みがない、眠れない、頭が痛い、食欲がなく水分もとれない、疲れやすく行動できない、など、症状が一つでも当てはまるときは、我慢せずに医療者に相談してください。ご家族も、このような症状が現れたのを発見したらすぐに医療者に相談してください。

以上です。
緩和ケア患者説明ガイド 2017 メディカ出版 より抜粋しました
ぴのこ拝

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