新年初の更新です。今年も宜しくお願い致します。
今回は日本緩和医療薬学雑誌 Vol.11 No.3 September 2018 原著論文より 引用させて頂きました。
中学生に対するがん教育の実施および生徒の意識変化
横山郁子 浅田聖士 藤本佳昭 河内正仁 沼田千賀子 (神戸薬科大学薬学教育・研究センター 神戸大学附属中学教育学校)
【要旨】がんは日本人の約2人に1人が罹患する身近な疾患である。がん対策推進基本計画にはがん教育が組み込まれ、平成29年度3月に告示された中学校と次期学習指導要領にがん教育が示された。そこで、保健体育、特別の教科 道徳、総合的な学習の時間を使用し、単にがんに対する知識を学ぶ場ではなく、人格形成の向上も目指した教科横断的な学習としてがん教育プログラムを作成、実施した。また、がん教育プログラムの実施前後にアンケート調査を実施し、生徒の意識変化を調査した。がん教育の実施により、がんに対する正しい知識が身に付くだけでなく、「がん」という一つの疾患を通じて、死は怖く悲しいことで誰にでも平等にやってくるが、今あるものの大切さに気付く、感謝の気持ちが生まれると感じるなど、道徳の分野においても教育効果があった。一方、生徒が家族と情報を共有することで、がんの予防や早期発見の重要性に対して親世代にも波及効果が認められた。
キーワード:がん教育、学校指導要領、がん対策基本法、中学生、学校薬剤師
【緒言】
がん教育は【「がん」についての正しい理解と、がん患者や家族などのがんと向き合う人々に対する共感的な理解を深めることを通して、自他の健康と命の大切さについて学び、共に生きる社会づくりに寄与する資質や能力の育成を図る教育】と定義されている。
【方法】
2016年秋の3日間中学1年生120名を対象に、1回3時間を1週間ごとに実施した。
1日目 テーマ「がんに対する正しい知識」講義(40分)、振り返りシート記入、SmallGroupDiescussion(25分) 発表(15分)
2日目 テーマ「健康って何?」若年性がん体験者による講演(40分) SGD(20分) 発表(15分)
3日目 テーマ「いのちの授業」命の授業(30分) ワークシート記入(10分) SGD(30分) 発表(10分)
プログラム前後に無記名自記方式でアンケートを実施した。
【結果】
がん教育実施前後における生徒のがんに対する知識の変化(p<0.001)
授業前(%)はい | いいえ | 授業後(%)はい | いいえ | |
がんは身近な病気である | 70.8 | 14.2 | 95.6 | 0.9 |
がんの治療の目的は完治することである | 31.0 | 35.4 | 7.1 | 79.6 |
がんは感染する病気である | 10.6 | 62.8 | 6.2 | 87.6 |
がんはすぐに死に至る病気である | 9.7 | 71.7 | 1.8 | 93.8 |
緩和ケアという言葉を知っている | 24.8 | 57.5 | 90.3 | 6.2 |
将来、がん検診を積極的に受けようと思う | 68.1 | 1.8 | 92.9 | 0.9 |
意識変化(P<0.001)は「今あるものの大切さに気付く」「感謝の気持ちが生まれる」「過去を振り返る機会」「自分を見つめなおす機会」「死ぬことは終わりではない」「これからの生き方について考える」
【考察】
医学の進歩により、日々がんに対する治療法が進化していることなどを正しく学ぶことで、がん=死といった短絡的でネガティブイメージをもってむやみに恐れることなく、また、自分自身や周囲の人ががんになった際に、きちんと向き合えることができるような人間形成が期待される。また生徒は家族とがんについて様々なことを話し合い、結果としてがんの予防や早期発見の重要性について共有し、親世代の教育にも有効であった。
がん教育は、小学校、中学校においては平成29年度が周知・徹底となっており、中学校では、平成30年度から先行実施、平成33年度(2022年度)からは全面実施となっている。文部科学省のホームページには、すでにがん教育プログラム補助教材が作成されている。厚生労働省のがん対策推進基本計画(第3期)においては、外部講師を活用することを推進しており、筆者らは、医療に関する知識があり、かつ学校とのかかわりも深い学校薬剤師を外部講師として活用することを提言する。現在、学校保健安全法に定められて、大学以外のすべての学校に学校薬剤師が置かれている。がん教育に参画することは可能となっており、これが各学校で実現すれば、学校薬剤師が顔の見える薬剤師として地域活動や教育に関わり薬剤師の職能を明瞭に示す機会となると考える。
以上つたない要約でした
「多感な中学生に生きることの意味にもつながるがん教育プログラムを行うことは素晴らしいと思いました。「緩和ケアという言葉を知っている」にはい」と答えた中学生が24.8%から90.3%に増えたことが私には衝撃でしたが、その定義が気になりました。治療をあきらめる=緩和ケアではなく、がんの治療開始から始まる抗がん剤副作用や症状対策を含めて大きな意味での「緩和医療」であってほしいと強く思いました。また責任ある大人は高額ながん治療ゆえに、医療保険の存続をかけて真剣に考えなくてはならないと思いました。