肺がんになった薬剤師(masami)がゲノム医療・緩和医療を学ぶ

ゲノム医療は、高校生物の知識が必要で難しいですが、ボチボチ学びます。緩和医療とはがん初期からの緩和ケアを含み、緩和ケア=あきらめ、死ではない。が持論です。所属する学会の許可を得ましたので、学んだことをつたないながら記事にして行きたいと思います。

せん妄予防のためのスボレキサント -メタアナリシス-

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今回は日本緩和医療学会ニューズレター第90号からです
せん妄予防のためのスボレキサント -メタアナリシス-
国際医療福祉大学病院 薬剤部
佐藤 淳也
Shu Xu, Yuanyuan Cui, Jinhua Shen, Peili Wang
Suvorexant for the prevention of delirium: A meta-analysis
Medicine (Baltimore). 2020 Jul 24;99(30):e21043. doi: 10.1097/MD.0000000000021043.


【目的】
 せん妄は、外科的処置を受けた患者や終末期がん患者において頻繁に遭遇する認知機能障害であり、入院期間の延長、生活の質の低下、死亡率の増加、医療従事者や家族の負担にも繋がる。従って、せん妄を予防する薬剤は、臨床的に重要である。本研究では、不眠症の治療に使用されるオレキシン受容体拮抗薬であるスボレキサントのせん妄と関連症状における有効性をメタアナリシス手法により解析した。
【方法】
 データは、PubMed、EMBASE、およびCochrane Libraryから抽出された。プールデータは、せん妄の発生率、せん妄の発症までの時間、死亡率、または有害事象について、オッズ比(OR)と標準化された平均差(SMD)に解析された。
【結果】
 7件の研究から402人のスボレキサント治療患者と487人の対照患者がメタアナリシスに含まれた。患者は、ICU入室患者の研究が2件、ICU以外の患者の研究が4件、両方を対象とした研究が1件であり、いずれも日本人であった。スボレキサントの投与量は、15または20mgであった。2件の研究は、プラセボとの比較であり、残りの5件は、他の睡眠誘発剤(ラメルテオン、ゾルピデム、リルマザホン、エチゾラムブロチゾラムフルニトラゼパムジアゼパムなど)との比較であった。スボレキサント治療患者では、せん妄の発生率(OR=0.30; 95% CI[0.21-0.44], p<0.001)およびせん妄発症までの時間(SMD=0.44; [0.13-0.74], p=0.006)が有意に低下した。しかし、二次転帰である入院期間、薬剤の有害事象や死亡率においては、スボレキサントの利点は確認されなかった。
【結論】
 メタアナリシスの結果は、スボレキサントがせん妄の発症を予防できることを支持するものである。
【コメント】
 準備因子(高齢、認知症)と促進因子(身体・精神的苦痛)が背景となり、手術や薬剤が最終的な直接因子として発症する。睡眠障害は、せん妄のリスク因子として知られる(Crit Care Med 2018; 46: e1204-12.)。一方で、これに対するベンゾジアゼピン系睡眠剤もせん妄の直接因子となっている(Arch Neurol. 2000 Dec; 57(12): 1727-31.)。一度せん妄が発症すると、抗精神病薬による治療を行うが、その有効性も限られている(Cochrane Database of Systematic Reviews, CD004770. pub3)ことからも、せん妄を予防するあるいはせん妄発症を促進しない睡眠剤の選択は重要である。スボレキサントは、せん妄予防には有益な薬剤の選択であるが、がん患者の不眠を十分解消するかは、今後の興味のあるところである。
以上

私の父も入院中せん妄激しく、精神科の先生にスボレキサント(ベルソムラ®︎)の処方を頼みましたがかないませんでした。せん妄は誰にでも起こる症状です。病院・施設スタッフの業務の負担を避けるためにも、正しくスボレキサントが使用される様願っています。

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肺がん〜治療と生活の困りごと徹底解説からサイコオンコロジーについて:ワンステップ主催

保坂隆先生(サイコオンコロジークリニック院長)

 思考のスゥィッチが大切である
  衝撃の段階防御的退行承認適応
  受容否認を繰り返す
  がんイコール死ではないことの明確化
  職場では1対1の二人だけの環境で上司に個人情報として知らせるのが良い
 「補完療法サプリメント、主治医と相談可能
 「民間療法」主治医と相談不可


堂々巡りからの脱却
 ①何かに夢中になって←脳は一つのことしか考えられない
 ②脳の仕事→今ここで生きるしかない
 ③脳は臓器の一つにしかすぎない→自分自身ではない、脳から自分自身を切り離して、客観的に眺めて見る
  脳は御者に過ぎない
 ④グループ療法(他者に学ぶ)→QOLを高める→ソーシャルサポート
 ⑤スピリチュアルがあるなしで能動的てあるかそうかがわかれる
 ・周囲に感謝
 ・愛し合える家族
 ・人の役に立てる
 ・与えたりわかち合える
 ・「愛」について考える

以上です。私自信、脳転移を起こすと自分が自分でなくなるようで怖かったのですが、脳は自分の一つの臓器に過ぎない、俯瞰することが大切と学びました。他者に学びソーシャルサポートでQOLを高めることも重要です。有意義なご講義ありがとうございました。

ぴのこ拝

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終末期がん患者のせん妄に対する アセナピン(シクレスト®)舌下錠の使用調査

終末期がん患者のせん妄に対するアセナピン(シクレスト®)舌下錠の使用調査
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仲野 宏紀1,2),明石 直子2),和田 知未3),井出 恭子4),井上 敦介1),
宮部 貴識1),山内 一恭1)
1)独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 薬剤部,
2)独立行政法人国立病院機構 姫路医療センター 薬剤部,
3)大阪鉄道病院 緩和ケア内科,4)独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 看護部

せん妄は終末期がん患者の 30〜40%に合併し,死亡直前は患者の 90% がせん妄状態にあるとされるが,治療抵抗性で,嚥下困難や静脈確保困難により薬物投与経路が制限される場合も多い.今回,終末期がん患者のせん妄に対しアセナピン舌下錠の使用を経験したので報告する.緩和ケアチームが介入し,アセナピン舌下錠を投与した患者 6 名を対象とした.アセナピンは,せん妄による不穏に対し,他の抗神病薬が無効あるいは使用できないために選択され,明らかな有害事象なく一定の鎮静効果を認めた.例が嚥下あるいは呼吸機能障害のために,制御困難な呼吸困難や窒息感を合併していた.アセナピン舌下錠は,内服や静脈確保困難な終末期せん妄患者において,せん妄による不穏制御の選択肢の一つになりうると考える.
Palliat Care Res 2021; 16(3): 261-65
Key words: アセナピン,せん妄,終末期がん患者
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日薬医薬品情報:DSU解説:令和元年改訂指示:抗悪性腫瘍剤 オシメルチニブメシル酸塩(タグリッソ®️)の重大な副作用に関する添付文書改訂のお知らせ

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DSU とは「医薬品安全対策情報(Drug Safety Update)」の通称です。医薬品を使う上での新たな注意事項について、製薬業界が取りまとめた情報です。

この情報はPMDAメディナとして、電子メールで配信しています。本情報をタイムリーに把握することを希望する施設はPMDAメディナビ登録をおすすめします。

タグリッソ®️の添付文書改訂指示:令和元年12月3日に発令を一部紹介します。

改訂指示月日

令和元年12月3日

改訂対象薬剤 タグリッソ®️-アストラゼネカ
改訂内容 重大な副作用追記:うっ血性心不全、左室駆出率低下

改訂の理由


国内症例が集積されたことにより、重大な副作用の項にうっ血性心不全(頻度不明)左室駆出率低下(頻度不明)が追記された。

発症機序

不明(該当資料なし)

頻度

不明(公開資料1件あり)





日々改訂される副作用症例をチェックするのは薬剤師の仕事でもあります。患者会で薬剤師さんの仕事が見えないと言う意見もありました。縁の下の力持ちなんですけれども、真摯に受け止め、抗がん剤治療の副作用は薬剤師さんに相談しようと、言ってもらえる様、精進したいと思います。

以上です ぴのこ拝
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緩和ケアチームで疼痛コントロールを行っていた患者が新型コロナウイルス感染症に罹患し死亡した2例

(学会の許可は得ておりますので、症例報告を載せさせていただきます。)
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緩和ケアチームで疼痛コントロール
行っていた患者が新型コロナウイルス
感染症に罹患し死亡した 2 例

山本英一郎,樋口 雅樹,井上裕次郎,青山菜美子,廣橋  猛
公益財団法人ライフ・エクステンション研究所付属永寿総合病院 緩和ケア科

【緒言】新型コロナウイルス感染症の第1波拡大中に, 疼痛コントロール目的に緩和ケアチームで介入していた患者が新型コロナウイルス感染症に罹患し死亡した2例を経験したので報告する.

【症例】疼痛コントロール目的にヒドロモルフォン錠を内服していた造血器腫瘍患者 2 例であった . 両者とも経過中に新型コロナウイルス感染症に罹患したが , 新型コロナウイルス感染症の特徴の一つとされる happy hypoxia と考えられる状態を認めた . 急激な全身状態の悪化を認めながらも呼吸困難感の訴えはなく , 投与経路を含めた薬剤調整を行い症状緩和に努めた .

【考察】緩和ケア診療で関与する患者が新型コロナウイルス感染症に罹患した場合, 基礎疾患を有するため急激な状態悪化を認める可能性があるとともに, 新型コロナウイルス感染症の特徴的な症状に応じたオピオイドタイトレーションが必要となる可能性がある .
Palliat Care Res 2021; 16(2): 191-96
Key words: COVID-19,SARS-CoV-2,オピオイド

happy hypoxia

(幸せな低酸素血症)とは、呼吸症状がそこまで悪くないのに、やたら酸素飽和度が低い状態を表します。苦しくないなので「happy」とついているわけですが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)でもそういう事例が目立ったため、一時センセーショナルに取り上げられました。

 しかし、間質性肺疾患をたくさん診ている施設では、今更、という現象でもあります。呼吸器内科領域では、突発性肺繊維症やその他間質性肺疾患の急性増悪時に、呼吸困難がそこまでひどくないのにSpO2が絶望的に低いケースをよく経験します。これもいわゆる happy hypoxiaです。
(日経メディカル 倉原優先生より)

新型コロナの入院患者さんもトイレ歩行がきっかけで重篤になる場合が多いです。
自宅待機の患者さんもパルスオキシメーターの数字と肺機能は必ずしも同位ではないことに注意しましょう。

以上です
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がん医療・緩和ケアにおいて, 医師の経験する地域差に関する調査 ─沖縄・東北・首都圏の比較─

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内藤 明美1),森田 達也2),神谷 浩平3),鈴木 尚樹4),田上 恵太5),
本成登貴和6,7),高橋 秀徳8,9),中西絵里香10,11),中島 信久8)
1)宮崎市郡医師会病院 緩和ケア科,2)聖隷三方原病院 緩和支持治療科,
3)一般社団法人 MY wells 地域ケア工房,4)山形大学医学部附属病院 腫瘍内科,
5)東北大学大学院 医学系研究科 緩和医療学分野,6)中頭病院 乳腺外科,
7)東北大学大学院 医学系研究科 外科病態学講座 乳腺 ・ 内分泌外科学分野,8)琉球大学病院 地域・国際医療部,
9)帝京大学医学部 緩和医療学講座,10)聖路加国際大学大学院 公衆衛生学研究科,
11)東北大学大学院 医学系研究科 保健学専攻 緩和ケア看護学分野

【背景】医療において文化的側面への配慮は重要である.本研究は沖縄・東北を例に首都圏と対比させ国内のがん医療・緩和ケアにおける地域差を調査した.
【対象・方法】沖縄,東北,首都圏でがん医療に携わる医師を対象とした質問紙調査を行った.
【結果】553 名(沖縄 187 名,東北 219 名,首都圏 147 名)から回答を得た.地域差を比較したところ,沖縄では「最期の瞬間に家族全員が立ち会うことが大切」「治療方針について家族の年長者にで亡くなると魂が戻らないため自宅で亡くなることを望む」などが有意に多く,東北では「特定の時期に入院を希望する」が有意に多かった.東北・沖縄では「がんを近所の人や親せきから隠す」「高齢患者が治療費を子・孫の生活費・教育費にあてるために治療を希望しない」が多かった.
【結論】がん医療・緩和ケアのあり方には地域差があり地域での文化や風習を踏まえた医療やケアに気を配る必要がある.
Palliat Care Res 2021; 16(3): 255-60
Key words: がん・緩和ケア,地域差,東北,沖縄

がん医療専門病院は比較的都会に集中しています。個別化医療のエキスパートパネルは遠隔地の病院も連携して行われます。地域により患者の心持が異なり、風土に合った治療、緩和ケアが求められます  

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以上 ぴのこ拝






緩和ケアで働く医療者のストレスマネジメント

緩和ケアで働く医療者のストレスマネジメント

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     月刊薬事2020vol.62 No1 編集 木澤義之より

Key Points


離職予防や緩和ケアという医療の質を維持するためにも、ストレスを抱えた医療者のストレスマネジメントは必要不可欠である

 

・個人が処理できるキャパシティを超えた負荷がかかる状態が持続すると、業務のパフォーマンスが低下し、職場で求められる水準で働き続けることができない状態、すなわち不適応が起こる

 

ストレスマネジメント

①生活リズムを整える
②積極的なコミュニケーション
③適切な意思決定
の3つが柱となり、問題解決的に取り組むことが求められる。

 

メンタルヘルス不調となった場合は、医療者であってもメンタルヘルスの専門機関の利用を躊躇する場合があるため、早期の利用が強く勧められる。

はじめに

 緩和ケアの領域では、患者の死を直接扱う機会が多く、その際の家族とのコミュニケーションを含めて医療者にとって、精神的な負担やストレスを感じることが多いと考えられる。ストレスを感じた医療者は患者への積極的な関わりを持ちづらくなり、状況がさらに悪化し、患者のみならず医療者のストレスも高まるといった悪循環も起こりやすいと考えられる、そのため、離職予防や緩和ケアという医療の質を維持するためにも、ストレスを抱えた医療者のストレスマネジメントは必要不可欠といえる、

不適応を予防するストレスマネジメントの基本的な考え方

・脳疲労状態に対しては十分な休息と質の良い睡眠を確保する
・キャパシティに対しては認知行動療法などによる認知・行動能力のトレーニングによる能力の向上を図る
・職場と生活におけるストレッサーに対しては環境調整をおこなうなどの予防策を企てていくこと。

** ストレスマネジメントの具体的方法

1.生活リズムを整える
2.積極的なコミュニケーションをとる
3.適切な意思決定を行うこと
意思決定においてはメリットとデメリットについて思い当たるものを書き出し、それを比較して最終的に自分の利益が大きくなるものを選択する必要がある

** メンタルヘルスケアの早期利用

不調が発生してから専門機関を受診・受領するまでの期間が短いことが、予後の改善と関連がある

以上です。

パンデミックの中、在宅で頑張っておられるチームの皆様の行動力には頭が下がります。どうぞご自分を第一にご奮闘ください。

ぴのこ拝

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