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平成28年12月改正のがん対策基本法では緩和ケアとは
「”がん”その他の特定の疾病に罹患したものに係る身体的若しくは精神的な苦痛又は社会生活上の不安を緩和することにより、その療養生活の質の向上を図ることを目的とする治療、看護その他の行為をいう」
と定義され、「緩和ケアが、診断の時から、適切に提供されるようにすること」とされています。
”苦痛”や”不安”は様々ありますが、がん患者さんやそのご家族にとって、やはりもっとも怖くてつらいのが”がんの痛み”です。しかし、がんの痛みのほとんどは十分にやわらげられるものです。そして、次のような誤解や迷信があります。
①痛みは我慢するものである。
②医師に痛みを訴えるとがん治療を中止されてしまう
③痛みどめ、特に医療用麻薬を使うのは最後の手段である
④痛みどめは命を縮める
⑤痛みどめを使っていると中毒になる
⑥痛みどめはだんだん効かなくなっていく
⑦よい患者は痛みなどのつらさを訴えないものである
⑧痛みを取り除いてしまうと病気の状態が分かりにくくなる
これらはみな誤解や迷信であって、痛みの治療を受けることをためらう必要はありません。
痛みに対する理解を深め、より良いケアを安心して受けていただくために、日本緩和医療学会がQ&A形式で発行している『患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド』から抜粋して何回かに分けて、紹介したいと思います。
Q1がんの痛みとはどのようなものですか?
がんの患者さんに生じる痛みの原因はさまざまですが、以下のように大きく4つに分類されています。
①がん自体が原因の痛み=がん疼痛(ほかの原因よりはるかに多い)
②がんに関連した痛み(筋肉のつり、手足などのむくみ、便秘などによる痛み)
③がんの治療に関連して起こる痛み(手術後の慢性痛、抗がん剤による口内炎など)
④がん以外の病気による痛み(変形性脊椎症、関節炎、胆石症など)や誰でも経験するような痛み(頭痛、歯痛、生理痛など)
* Q2 がん自体の痛みにはどのようなものがありますか?
どんなメカニズムでがんの痛みが起こるのですか?
がん自体が原因の痛みには、3種類の性質の痛みがあります。
①がんが内臓にある場合の痛み(内臓痛)
内臓にがんができた場合、がんが存在することによる刺激や圧迫によって痛みが生じます。「このあたりが痛い」といった、やや広範囲で鈍く重い感じの痛みが特徴的です。
②骨や筋肉、皮膚といった、体の構造部分から伝わる痛み(体性痛)
がんが、骨や筋肉、皮膚など、「体性組織」と呼ばれる部分にできて直接刺激を受ける痛みのことで、体性痛とよばれます。「うずくような」「ズキズキする」「ヒリヒリする」などと表現され、体を動かしたり圧迫したりすると鋭い痛みが出ます。
③痛みを伝える神経の経路が障害を受けた時に生じる痛み(神経障害性疼痛)
神経の集まった部分や神経の束が、がんによって障害を受けると、その神経が行き渡る体の部分に、さまざまな痛みやしびれ感などの異常な感覚があらわれることがあり、これを神経障害性疼痛と言います。軽く触れるような刺激で痛みを感じたり、「灼けるような」痛みであったり、「ピリピリ、チクチクした」痛みや、「ビリッと電気が走るような」痛みが混じったりすることがあります。
* Q3 痛みが出たということは、がんが進行している証拠なのでしょうか?
がん以外の原因でも痛みは生じ、必ずしもがんの進行とは関係ありません。
* Q4 痛みどめを使うことで、がんの治療に悪い影響が出るのではないでしょうか?
痛みどめの使用は、がん治療に悪い景況は与えず、治療継続の助けになることもあります。
Q5 痛みどめは、最初はできるだけ少ない量で我慢するほうがよいのでしょうか?
いいえ、そんなことはありません。痛みを我慢していると日常生活に影響が出ますので、早くから痛みが和らぐよう十分な量の痛みどめを使うことが大切です。
* Q6 痛み止めはだんだん効かなくなり、大量に使わなければ効き目がなくなるのではないでしょうか?
それは誤解です。痛みの強さに応じて、痛みどめの量を増やしたり、種類を変更すればほとんどの痛みは和らぎます。