今回はWHO方式がん疼痛治療法の第3段階にあたる、強い痛みに用いる痛み止めについて「患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド」からの抜粋です。
* Q1 医師からモルヒネが必要かもしれないと言われて不安です。また知人からは貼るタイプの痛み止めもあると聞いています。医療用麻薬について教えてください。
A1 医療用麻薬は中位の痛みから強い痛みに対して使用されます。代表的なものはモルヒネ、ヒドロモルフォン、オキシコドン、フェンタニル、タペンタドールですが、治りにくい痛みに対してメサドンと言う薬が使用されることもあります。医療用麻薬は種類により、性質や使用法が異なりますので、医師と相談して自分に合った薬を選ぶことが大切です。
医療用麻薬は主に脊髄や脳に作用して痛みを和らげる効果を発揮します。
痛みの程度を見ながら調節します。これ以上増やせないと言う限界の量はありません。
代表的なものは以下の6種類があります。副作用としては吐き気、便秘、眠気などがあります。
①モルヒネ
モルヒネは最も古くから使用されている天然由来の医療用麻薬で、世界的にはがんの強い痛みに対して、標準的に使われる薬です。
製剤の種類が豊富で、ゆっくり体に吸収されるものと、痛い時の頓服薬として使用する薬には、速やかに体に吸収される、飲み薬があります。坐薬や注射液もあります。
モルヒネは肝臓で処理され、腎臓から排出されます。このため腎臓の働きが低下している患者さんでは、眠気などが起こりやすくなりますので注意が必要です。
⓶ヒドロモルフォン
ヒドロモルフォンは2017年に飲み薬が日本に導入され、モルヒネと似た性質を持つ薬です。
モルヒネとは違い、腎臓の働きが低下している患者さんでも比較的安全に使用することができますが、眠気の副作用には同様に注意が必要です。
③オキシコドン
オキシコドンはモルヒネと似た性質を持つ薬です。2003年に飲み薬が日本に導入されて以来、国内でも広く使われています。量の少ない錠剤があるため、初めて医療用麻薬を使用する患者さんにもよく使われています。
④フェンタニル
フェンタニルは皮膚に貼ることで、皮膚の毛細血管から薬を吸収させて、全身に作用する貼付剤(貼り薬)、頬の裏や舌の下の粘膜から吸収させる製剤(口腔粘膜吸収製剤)、そして注射薬があります。
貼付剤は効果が長く続く反面、調整することが難しいため、痛みが安定している患者さんに限って使用することが進められます。
口腔粘膜吸収製剤は、体への吸収が早く、効果も早く現れるのが特徴で、痛い時に頓服薬として使用します。フェンタニルはモルヒネやオキシコドンに比べ、副作用が少ないとされています。
⑤タペンタドール
タペンタドールは2014年にのみ薬が日本に導入された比較的新しい薬です。モルヒネやオキシコドンに比べ副作用が少ないとされています.
タペンタドールの製剤には量の少ない錠剤があるため、初めて使用する患者さんによく使われます。
⑥メサドン
メサドンは2013年から使用できるようになりました。製剤には1日に3回内服する飲み薬があります。モルヒネやオキシコドン、フェンタニルではコントロールが難しい痛みに対して使用されます。
一方で、メサドンは体の中にとどまる時間が長く、その個人差も大きいので、量の調節と副作用の観察を慎重に行う必要があります。
そのためメサドンは講習を受けた医師のみが処方できることになっています。
副作用としては、吐き気、便秘、眠気の可能性があり、稀ですが不整脈が現れることもありますので注意が必要です。
医療用麻薬一覧
一般名 | 主な商品名 | 製剤の種類 |
モルヒネ | パシーフ® | カプセル |
カディアン® | カプセル | |
MSコンチン® | 錠剤 | |
モルペス® | 細粒 | |
MSツワイロン® | カプセル | |
モルヒネ塩酸塩® | 錠剤、粉薬 | |
オプソ® | 液剤 | |
アンペック® | 坐薬 | |
アンペック®、プレペノン® | 注射薬 | |
ヒドロモルフォン | ナルサス® | 錠剤 |
ナルラピド® | 錠剤 | |
オキシコドン | オキシコンチン® | 錠剤 |
オキシコドン® | カプセル | |
オキノーム® | 散剤 | |
オキファスト® | 注射薬 | |
フェンタニル | デュロテップMT® | 貼付剤 |
ワンヂュロ® | 貼付剤 | |
フェンタニル® | 貼付剤 | |
イーフェンバッカル錠® | 口腔粘膜吸収製剤 | |
アブストラル舌下錠® | 口腔粘膜吸収製剤 | |
タペンタドール | タペンタ® | 錠剤 |
メサドン | メサペイン® | 錠剤 |
Q2 医療用といっても麻薬を使えば麻薬中毒になるのではありませんか?
A2 適切に使用すれば麻薬中毒になる心配はいりません。麻薬によって脳の中で「ドパミン」という快楽物質が働くため精神依存が起こりますが、痛みのある患者さんの場合ではドパミンが働かないことが分かっています。
Q3 知り合いから医療用麻薬は最後の手段と聞きました。今から使うということはそんなに病状が悪化しているのでしょうか?
A3 医療用麻薬の使用と病状とは必ずしも関係はありません。医療用麻薬は決して最後の手段ではなく、痛みに応じて必要な時期から開始することが正しい使い方なのです。
以上です
医療用麻薬についてざっと説明してみました。痛みのコントロールは早期からの緩和ケアの中でも非常に大切です。患者さんにはQOL(Quality of Life)すなわち、生活の質が守られた、痛み治療を受ける権利があります。
がんサバイバーとして、患者さんや家族の皆さんが、心やわらぎ、穏やかに過ごされることを願って止みません。