肺がんになった薬剤師(masami)がゲノム医療・緩和医療を学ぶ

ゲノム医療は、高校生物の知識が必要で難しいですが、ボチボチ学びます。緩和医療とはがん初期からの緩和ケアを含み、緩和ケア=あきらめ、死ではない。が持論です。所属する学会の許可を得ましたので、学んだことをつたないながら記事にして行きたいと思います。

がん薬物療法と糖尿病、耐糖能異常

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今回は 糖尿病療養指導のためのDMEnsemble 2019 Vol8 から
内野慶太先生(NTT東日本関東病院 腫瘍内科)の記事

「がん薬物療法と糖尿病、耐糖能異常」についてです。


 日本人の2人に1人が生涯でがんと診断される時代となりました。がん患者さんの8~18%に糖尿病が合併しているとの報告(1)もあり、がん薬物療法を扱う上で、糖尿病、耐糖能以上の評価管理は治療の有用性向上にあたって重要となります。

1、がん薬物療法中の血糖コントロールの目標

 糖尿病患者さんにおける血糖管理とがん罹患リスクとの質の高いエビデンスは存在していません。一方では高血糖が造血器腫瘍患者さんでの生存期間の短縮や感染症の発現率増加につながる可能性も報告されている(2)(3)ものの、明確な目標値のエビデンスには乏しいです。

 がん薬物療法の食欲低下や、あるいは原疾患による生命予後、QOLの観点から、血糖コントロールをどこまで厳密に行うかは、個々の患者さんに対して多職種による評価、検討を繰り返し行いながら総合的に判断していくのが現実的です。

重篤な併存疾患や予想される余命が短い場合は、より寛容なHbA1c値を目標値とする点を踏まえ、「治療強化が困難な際」の目標値であるHbA1c8.0%未満、つまり空腹時血糖160~170mg/dl未満を大まかな目安としています。

2、感染症増加のリスク

 糖尿病患者さんでは免疫応答が低下しており、肺炎や尿路感染、歯周感染などの感染症には注意が必要です。

 がんによっては病巣により感染症を発症しやすい状態での治療を余儀なくされる場合もあります。例えば腹膜播種による尿管狭窄や腸管狭窄、蠕動運動の低下、胆管狭窄、あるいは気管支閉塞による無気肺や排痰機能障害などです。このような主な病状を有する糖尿病、耐糖能異常患者さんでは、感染症のリスクに常に注意を要します。

3、心血管系イベント増加のリスク

 糖尿病患者さんでは、血管障害による心血管系イベントのリスクが増加するため、そのリスク軽減への管理が重要です。中でも血管新生阻害薬での影響に注意を要することが言われています(4)(5)。また分子標的薬を始め、高血圧や脂質異常、高血糖といった心血管系イベントリスクを増加させる副作用を有する薬剤もあるので、注意を要します。

4、神経障害悪化のリスク

 オキサリプラチンやシスプラチンなどの白金製剤、タキサン系などの薬剤では神経障害の副作用があり、高度になると患者さんのQOLに大きく影響するものとなります。糖尿病患者さんではこのような神経障害の発現率が高いと言う報告(6)があり、重篤化や回復遅延の可能性も考えた治療計画や管理が必要になります。

5、腎障害悪化のリスク

 糖尿病合併は、がん患者さんにおけるシスプラチンの急性腎障害のリスク因子の1つにも挙げられています(7)。特に腎排泄型の治療薬を使用する際は、治療前の腎機能の評価及び治療中の腎機能の推移に注意すべきです。

6、ステロイド

 悪心、嘔吐に対する支持療法の一環として、ステロイドを用いるレジメンが多くなってきています。使用時に高血糖を呈することが多くあり、糖尿病、耐糖能異常を有する患者さんでは、治療中の悪化に気をつける必要があります。

 ステロイドによる血糖の変動は、早朝空腹時血糖は正常値に近く、食後高血糖や夕方高血糖をきたすこともあり、空腹時血糖のみでは発症や悪化を見落とすこともあり、治療前には食後血糖値を測定することも検討します。

 ステロイドによる糖尿病、耐糖能以上には、基本的にはインスリン投与で治療を行うことが多いです。1日3〜4回モニタリングを行い血糖上昇に応じたスライディングスケールから始めます。

 血糖上昇が比較的軽度な例では、経口薬も検討できます。患者さんの生活やQOL、サポート体制などを総合的に考慮し判断することが大切で、診療科横断的な連携が必要とされます。

7、悪心、嘔吐、食欲不振、味覚異常、口内炎などによる摂食状態の変化への対応

スルホニル尿素・・・食欲低下時の対応を事前に検討しておく
ビグアナイド薬・・・摂食低下状況では、脱水による腎障害による乳酸アシドーシスに注意。造影剤を使用の際は注意。
SGLT2阻害薬・・・脱水や尿路感染症の悪化に注意

8、薬剤そのものでの耐糖能異常(免疫チェックポイント阻害薬)

免疫チェックポイント阻害薬では劇症1型糖尿病の発症の危険性があり注意を要します。

(1)Giovannucci E,et al; Diabetes Care 2010; 33: 1674-1685
(2)Vu K,et al: Clin Lymphoma Myeloma Leuk 2012; 12: 355-362
(3)Benfield T, et al: Dabetologia 2007; 50: 549-554
(4) Li W,et al:J Am coll Cardiol 2015;66: 1160-1178
(5) 向井幹夫:心臓 2017;49(8)
(6)Vissers PA,et ai: J Cancer Surviv 2015;9(3):523-531
(7)Mizuno T, et al:Oncology 2013;859:364-369

以上です。

ぴのこ拝
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