末梢神経障害(Chemotherapy-Induced Peripheral Neuropathy; CIPN)は、目で見えない主観的な感覚異常です。初期は手足先の違和感程度でも、投与ごとに蓄積性(何コース目の治療か、総投与量の程度)に神経障害が増強します。
末梢神経障害が出現しやすい薬剤は治療のキードラッグであり、継続治療が延命効果につながります。しかし、末梢神経障害は抗がん薬の副作用のつらさのなかで、脱毛や倦怠感、食欲不振と同様に上位にあり、患者さんの日常生活、動作に影響します。
手袋や靴下を使用して保温に努め、手足の軽い運動やマッサージを行い、末梢循環をよくすることで症状を軽くすることができます。ただし、熱いものを持ったり電気毛布を使用したりするときはやけどに注意します。
オキサリプラチン(エルプラット®)による急性の末梢神経障害は、投与後5日程度、寒冷刺激を避けることで予防できます。
またタキサン系薬による末梢神経障害に冷却グローブや手術用グローブを用いた予防効果が示されていて、投与時の局所血流制御が末梢神経障害の発現予防に寄与している可能性があります。
軽度
<症状>足裏にうすい板が1枚張り付いているような感じ。指先、足先や足裏の感覚が鈍い。足先にしびれたような感じ。
<対応>手足の感覚が鈍いために、ケガに注意。デュロキセチン(サインバルタ®)で増強を先延ばしにすることができる。
<セルフケア>痛みを感じない程度に1本1本をマッサージする。ヒールや締め付けの強い靴、足先の保護がないサンダルを避ける。
中度
<症状>ボタンを留めるのが難しくて時間がかかる。しっかりと物をつかめず、落としてしまう。
<対応>痛みを伴っていれば治療薬は中止を検討。デュロキセチン(サインバルタ®)の内服。
<セルフケア>包丁はピーラーやキッチンばさみなどに変更する(安全に家事や作業ができるように考える)段差を確認し転倒に注意する。感覚異常になり、足指が全部かじかんだような感覚になるため、五本指靴下を推奨。
重度
<症状>爪を押さえただけで痛い。爪切りが痛くてできない。字が書けず、メールを打てない。指先が冷たい。常にしびれに悩まされる。
<対応>痛みどめの併用を試す。投薬中止を検討する。
<セルフケア>指先・爪の状態、やけど、傷を作っていないか、目で見て確認する。家族のサポートを得る。
末梢神経障害の重症度評価
Grade 1 | 症状がない;臨床所見または検査所見のみ;治療を要さない(例:手足になんとなくしびれなどの違和感がある) |
Grade 2 | 中等度の症状がある;身の回り以外の日常生活動作の制限(例:文字が書きにくい、箸が使いにくい、つまずきやすい、靴が履きにくい) |
Grade 3 | 高度の症状がある;身の回りの日常生活動作の制限;補助具を要する(例:歩行困難、コップが持てない) |
Grade 4 | 生命を脅かす;緊急処置を要する |
末梢神経障害の症状緩和を期待して用いられる薬剤
分類 | 薬剤 |
---|---|
ビタミン剤 | ・ピリドキサール(ビタミンB6)・トコフェロール(ビタミンE*)・メコバラミン(ビタミンB12*) |
抗うつ薬 | ・アミトリプチリン・アモキサピン・ノルトリプチリン・デュロキセチン・イミプラミン |
抗けいれん薬 | ・ガバペンチン・クロナゼパム・カルバマゼピン・プレバガリン* |
抗不整脈薬 | ・メキシレチン・リドカイン |
漢方薬 | ・牛車腎気丸**・芍薬甘草湯** |
その他 | ・オピオイド製剤・トラマドール・ノイロトロピン®・トラマドール・ケタミン・NSAIDs |
*末梢神経障害/末梢神経炎に適応あり
**症状に応じた適応症
・デュロキセチン(サインバルタ®)はプラチナ製剤による末梢神経障害に対して効果が高いが本邦適用外。
・トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠(トラマドール®)とオキシコドンがオキサリプラチン(エルプラット®)による末梢神経障害に有効であるが、エビデンスは乏しく、本邦適用外。
以上です。
YORi-SOUがんナーシング2018 vol.8 No.4
がん薬物療法副作用管理マニュアル より抜粋しました
ぴのこ拝