肺がんで進むゲノム医療の応用Q&A
近畿大学医学部
ゲノム生物学教室教授
西尾和人先生
『肺がんのゲノム医療 遺伝子検査がわかる本』より
Q1. がんゲノム医療とは何ですか?
A1.遺伝子の異常に合わせて最適な治療を選択する方法です。
がんゲノム医療は、患者さんのがんの組織などを使って遺伝子の異常の有無を調べ、一人ひとりに最適な薬物療法を選択する方法です。「個別化治療」、「プレシジョン・メディシン」と呼ばれることもあります。がんは遺伝子のケガによって起こる病気です。遺伝子はわたしたちの体の設計図です。遺伝子のどこかに傷がついて変化(変異)が起こると、細胞ががん化し、増殖を繰り返します。
がんには、主に、いくつもの遺伝子の異常が重なった多段階発がんと、「ドライバー遺伝子」と呼ばれる一つの遺伝子の異常が増殖に関わるがんがあります。車におけるアクセルの役割をするのが「がん遺伝子」、ブレーキが「がん抑制遺伝子」ですが、肺がんのドライバー遺伝子は、ほとんどが、アクセルの働きをするがん遺伝子の異常です。アクセルに異常が起きるとがんの増殖が加速します。非小細胞肺がん、中でも腺がんの患者さんの7割以上は、ドライバー遺伝子の異常が引き金となって発がんしたと考えられます。
Q2. 肺がんのドライバー遺伝子について教えてください
A2. EGFR、 ALK、ROS1,BRAF、 などがあります。
ドライバー遺伝子は、がんの発生や増殖に直接関わっている遺伝子です。ドライバー遺伝子があると、その下にある遺伝子に「増殖しろ」という情報を伝達するため、がん細胞が活性化しどんどん増殖していきます。
非小細胞がんのうち、非扁平上皮がんの増殖に関わるドライバー遺伝子には、EGFR変異遺伝子、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAF変異遺伝子などがあります。ドライバー遺伝子を標的とした分子標的薬を使う事で、増殖が抑えられ縮小する可能性が高まります、がんの組織を用いた遺伝子検査は、ドライバー遺伝子を見つけて、最適な分子標的薬を投与するために重要なのです。
Q3. がんゲノム医療には、どのような検査法を使うのですか?
A3. 基本的に、次世代シークエンサー(NGS)を用います。
次世代シークエンサー(NGS)は、遺伝子の本体であるDNAやRNAの塩基配列を高速で読み取る装置です。その配列を解析する事で、遺伝子の変化の有無が診断できます。NGSでは全ゲノムの解析もできますが、がんゲノム医療の検査では、薬の選択のために必要な特定の遺伝子を限定して、異常の有無を調べます。
NGSを用いた遺伝子検査には、コンパニオン診断検査とプロファイリング検査があります。コンパニオン診断検査は、保険診療で認められた医薬品の効果を予測するために使われます。プロファイリング検査は、現在治験が進められている保険適応外の薬なども含めて、新たな治療選択につながる多数の遺伝子異常を一度に検出するために行なわれる検査です。がんの組織を用いて100種類以上の遺伝子の異常の有無をNGSで一度に調べます。
非小細胞癌の患者さんが薬物療法を始める前に受ける、NGSを用いたコンパニオン診断検査では、EFGR ,ALK,ROS1,BRAFといったドライバー遺伝子の有無が一度に調べられます。
プロファイリングの検査は「がんゲノム医療中核拠点病院」、「がんゲノム医療拠点病院」、「がんゲノム医療連携病院」のみで受けられます。この遺伝子検査には、手術や生検で採取したがんの組織が必要です。プロファイリングの遺伝子検査を受けるメリットがあるかどうかは、主治医に相談してみましょう。
以上です。
プロファイリング検査により、治療の選択肢が画期的に増えることを願って止みません、
ぴのこ拝