肺がんになった薬剤師(masami)がゲノム医療・緩和医療を学ぶ

ゲノム医療は、高校生物の知識が必要で難しいですが、ボチボチ学びます。緩和医療とはがん初期からの緩和ケアを含み、緩和ケア=あきらめ、死ではない。が持論です。所属する学会の許可を得ましたので、学んだことをつたないながら記事にして行きたいと思います。

メサドンを先行オピオイドに追加で導入した 後に,先行オピオイドの漸減・中止を行った 28 例の検討

京坂  紅,割田 悦子,中西 京子,太田 池恵,高塚 直能,
深澤 義輝,余宮きのみ
埼玉県立がんセンター 緩和ケア科

本邦のメサドン適正使用ガイドには,SAG先行強オピオイドをすべて中止してメサドンを開始する方法)が記載されている.当センター緩和ケア科では,詳細な評価のもと,メサドンを先行オピオイドに追加で導入した後に,先行オピオイドの漸減・中止する投与法を行っている.今回,この投与法をった 28 例について,臨床的意義を考察した.28 例中 20 例(71.4%)でメサドンは至適用量に達し,痛みの増悪や深刻な有害事象なく,メサドンのタイトレーションを安全に行うことができた.ただし,本方法が安全に行われるには,半減期が長いメサドンの薬理学的特性に留意し,メサドン導入後の鎮痛効果と有害事象についての詳細な評価と薬剤調整が必要であると考える.
Palliat Care Res 2021; 16(2): 185-90
Key words: メサドン,がん疼痛,オピオイド変更


『緒 言』
メサドンは,神経障害性疼痛に有用とされ,WHOがん疼痛ガイドラインの鎮痛薬リストに掲載されている。長時間作用型 μ オピオイド受容体作動薬である.本邦では 2012 年 11 月に薬価収載された.

 メサドンは,他のオピオイドとの交差耐性が不完全であり,オピオイド鎮痛薬に特有の有害事象(便秘,悪心,嘔吐,眠気等)に加えて不整脈、 QT 延長,心室頻拍(Torsadesde pointes を含む等]や呼吸抑制の副作用を持ち,半減期が長くその個人差も大きいといった薬理学的・薬物動態学的な特徴がある。


そのため本邦のメサドン適正使用ガイドでは,メサドンの適応は「他の強オピオイド鎮痛薬で治療困難な中等度から高度の疼痛を伴う各種がんにおける鎮痛のみ」とされており,メサドンへの変更方法としては,stop and go(以下,SAG)法(先行強オピオイドを全て中止してメサドンを開始する方法)が記載されている.

 今回われわれは,過去の症例報告をもとに,メサドンを先行オピオイドに追加で導入した後に,先行オピオイドの漸減・中止を行った 28 例を集計し,その臨床的意義を考察したので報告する。

『考 察』
今回,われわれはメサドンを先行オピオイドに追加で導入した後に,先行オピオイドの漸減・中止を行った結果,28 例中 20 例,71.4%の症例で至適用量に到達した.がん疼痛に対して先行オピオイドにメサドンを追加で導入した調査研究として,Hagen らの報告がある.外来患者を対象としており,また後視的研究のため投与方法は一定ではないが,基本的にはメサドンを 4 時間ごとに 5 mg で開始(平均開始量は 27.3 mg/日)した後,3 日ごとに 1 回あたり 5 mg ずつ増量するタイトレーションが行われており,鎮痛が得られた段階で先行オピオイドを 1/3 ずつ減量・中止していた.その結果,29 例中 18 (62.0%)の患者においてタイトレーションに成功しており,著者らは外来で安全にメサドンを導入できると結論している.Hagen らの報告は,先行オピオイドにメサドンを上乗せして導入し,鎮痛が得られた時点で先行オピオイドを減量・中止した点で,われわれの治療方法と同じである.一方,われわれは,眠気などの有害作用が出現した時点で先行オピオイドを減量した点,また原則的に入院患者を対象とした点で異なっているものの,至適用量に達した患者の割合は同等の結果であったと考える.また,メサドンと他のオピオイドを併用した調査として,Fürstらがスウェーデンにおける先行オピオイドに少量のメサドンを上乗せして使用した症例について調査した結果を報告している.それによると,調査期間中メサドンを開始された患者 410 名のうち 96%の患者で先行オピオイドにメサドンを使用している。メサドン開始の主な理由は不十分な疼痛マネジメント(74%)であり、追加して開始する方法がとられている。
メサドン開始量は5-10mg/日(中央値5mg/日)先行オピオイドの投与量は経口モルヒネ換算184mg(中央値)患者で先行オピオイドにメサドンを追加して開始する方法がとられていた.メサドン開始の主な理由は,不十分な疼痛マネジメント(74%)であり,メサドン開始量は5-10 mg/日(中央値5 mg/日),先行オピオイドの投与量は経口モルヒネ換算 184 mg(中央値)であった.
NRS,Visual Analogue Scal(e VAS),Edmonton Symptom
Assessment Scal(e ESAS),Integrated Palliative Care Outcome Scal(e IPOS)を用いた疼痛アセスメント結果が得られた 84%の患者のうち,69%の患者はメサドンによる鎮痛効果を very good または good と報告していた.一方,メサドンの中止に至る有害事象は認められなかったとしている.Fürst らの報告は,先行オピオイドに少量のメサドンを追加する疼痛治療法であり,われわれの投与方法とは方針が異なるが,先行オピオイドとメサドンを併用し,メサドン中止に至る有害事象は生じなかったという点において,本報告と一致している.
さらに本邦では,上原らや阿部らが,難治性のがん疼痛に対して入院環境下で先行オピオイド安全にスイッチングが行えたとしている.代表的なスイッチング法として,先行するオピオイドを 1/3ずつ 3 日間かけて減量し、同時にメサドンを1/3 ずつ増量していく 3-days switch(3DS)法や SAGがある.メサドンへの変更方法を比較した先行研究は少ないが,SAG 法と 3DS 法を無作為化比較試験で評価した Moksnes らの報告がある.SAG 群では有害事象により試験から脱落した症例が多く,3DS 群では重篤な有害事象は認めず,鎮痛効果は 3DS 群が優位であったとしている.対象患者に投与されてい先行オピオイド量は経口モルヒネ換算で両群とも 1,000 mg 前後と高用量であり今回の結果との比較はできないが,SAG 法が 3DS 法より優れているとはいえないとしている.
以上のことから,難治性のがん疼痛にメサドンを導入する場合,痛みの増悪を回避するために,本邦で推奨されている SAG 法だけではなく,段階的にオピオイドを変更する投与方法についても検討していく必要があると考える.

本邦のメサドン適正使用ガイドで推奨しているSAG 法によるメサドンの至適用量到達率は,国内第 II相臨床試験においては 85%,木村らにより 84.1%,Mercadante らにより 77.4%と報告されている.今回の結果でメサドンが至適用量に到達した割合は,先行研究に比較して低い傾向ではあったが安全に行うことができた.
 今回の結果から,メサドンを先行オピオイドに追加導入した後に,先行オピオイドの漸減・中止を行う投与法は,痛みの増悪なく安全にメサドンを導入できることが示唆される.ただし,本方法が安全に行われるには,半減期が長いメサドンの薬理学的特性に留意し,今回,方法に挙げた基準①を念頭においたメサドン導入後の鎮痛効果と有害事象についての詳細な評価と薬剤調整が必要であると考える.
とくに,フェンタニル製剤は,呼吸抑制による死亡例が FDA や本邦製薬会社から報告されており,基礎実験でも呼吸抑制を起こしやすい傾向が示唆されているため,今回,方法に挙げた基準②に従い,メサドンの効果を待たずにフェンタニル製剤の減量・中止を積極的に行った.フェンタニル貼付剤は鎮痛効果時続時間が長く,中止後に血中フェンタニル濃度が 50%に減少するのに 17 時間以上(16.75~る19)ことから,先行オピオイドフェンタニル貼付剤の場合は,血中メサドン濃度の上昇と血中フェンタニル濃度の減少に要する時間を考慮し,フェンタニル貼付剤の減量・中止を行う必要がある.また,今回の検討で至適用量に到達しなかった症例では,至適用量に到達した症例と比較して,先行オピオイド量が多い傾向が認められた.先行オピオイド量が多い症例で至適用量に到達しなかった理由として,メサドンの初期用量不足による不十分な鎮痛が考えら
れる.European Association of Palliative Car(e EAPC)によ
ガイドラインでは,経口モルヒネから経口メサドンへの換比は 1:5 から 1:12 または 24 以上と広範囲にわたり,推奨比確定できないとしており,加えて経口モルヒネが高用量になるメサドンとの換算比は大きくなるという報告もある.したがって,先行オピオイドが高用量の症例では,メサドンの初期用量を本邦のガイドの推奨量より高用量必要な可能性があり,メサドンとの換算比の差が小さい比較的低用量の段階でメサドンを導入することが至適用量到達には有利である可能性がある.

 本研究の限界は,単一施設の後ろ向きの観察研究であること対照がないことである.今後,先行オピオイドにメサドンを追する投与法を含めたメサドンのスイッチング法を比較した多施前向き研究が望まれる


『結 論』

本研究の結果から,メサドンを先行オピオイドに追加で導入た後に先行オピオイドの漸減・中止を行う投与法により,安全にメサドンを導入できることが示唆された.ただし,有害事象の発生を回避し,有害事象を早期に発見するために,初回のメサドンの投与は可能な限り入院で行うこと,患者・看護師・医師の協力により鎮痛効果や有害事象を詳細に評価すること,
メサドンを先行オピオイドに追加で導入した 28 例鎮痛効果や有害事象に先んじた先行オピオイドの減量量・中止が必要である.

以上です

メサドンは医師の教育も必要とする医療用麻薬ですが、オピオイドスイッチングには欠かせない麻薬です。正しく患者さんのもとに届けられることを願って止みません