肺がんになった薬剤師(masami)がゲノム医療・緩和医療を学ぶ

ゲノム医療は、高校生物の知識が必要で難しいですが、ボチボチ学びます。緩和医療とはがん初期からの緩和ケアを含み、緩和ケア=あきらめ、死ではない。が持論です。所属する学会の許可を得ましたので、学んだことをつたないながら記事にして行きたいと思います。

抗がん剤副作用対策 皮膚の乾燥とスキンケア

 皮膚の乾燥は年齢とともに進行し、夏よりは湿度の低い冬から春にかけて、また、分子標的薬の副作用としても発現します。

 

 皮膚の乾燥に最も気をつけるのは入浴(洗顔、洗髪を含む)で、一日の楽しみの一つですが、皮膚にとっては必要悪となります。角層が剥がれ落ちると皮膚に穴ができ、水分蒸発が増し、傷がつくことによって炎症が起きます。また、皮膚をこすることはEGFR阻害薬などによる皮膚乾燥やざ瘡(にきび)様皮疹の発生を促します。

 

 入浴時はタオルなどを使用せずに手でそっとなでるように洗います。 顔を洗った後のふき取り時はタオルを軽くあてて水分を吸い取るようにし、決して横方向にこすらないようにします。手指が白くふやけてしまった状態は皮膚のバリアがかなり破壊された状態と考えてよく、入浴後の乾燥と皮膚のひび割れにつながります。

 

 保湿剤は入浴と関係なく外用しても良く、軟膏、クリーム、ローション、水溶液の順に塗りやすくなっていきますが、保湿作用は落ちていきます。ワセリン(プロぺト®は純度が高く伸びがいい)、ツバキ油やオリーブオイルも安全に使用できます。市販薬はなるべく含有物質の種類の少ないものが望ましいです。

POINT

・入浴や洗浄は皮膚にとって必要悪と考える

・タオル、スポンジやブラシを用いず(石鹸は可)、手指の腹でやさしく洗う

・入浴は可能な限り短時間とする

洗顔は1日1~2回を限度とする

・皮膚を物理的に刺激するような垢すり、乾布摩擦、健康サンダルなどは避ける

・保湿剤の剤型をを好みに合わせて使い分ける

 以上です

Cancer Bosard Square vol.4 no.2 2018 より 抜粋しました ぴのこ拝

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パールリボンキャラバン in 大阪 肺がん みんなで学ぼう治療のヒント

 こんにちは ぴのこです。久しぶりの公開となりました。今回は10月13日に開催された パールリボンキャラバン in 大阪 について簡単に述べようと思います。

「肺がんの基礎知識」大阪はびきの医療センター 平島智徳先生

#1肺がんとは
#2肺がんの薬物療法        
1)細胞障害性抗がん剤(白金製剤、チューブリン重合促進、代謝拮抗剤、トポイソメラーゼ阻害剤)

2)分子標的治療薬(EGFR遺伝子、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAFV600E遺伝子、血管新生阻害剤)

3)がん免疫療法(抗PD-1抗体薬、抗PD-L1抗体薬、抗CTLA-4抗体薬があり、20%の患者さんに効き、効果持続時間は長い)

#3今後の肺がん治療二大潮流として            
がんゲノム医療 2019年 網羅的がん関連異常検査の保険適応、がんゲノム医療中核拠点病院(11か所)の指定

がん免疫療法 StageⅠ-Ⅲ非小細胞がんにネオアジュバント(術前補助)療法と地固め療法

#4チーム医療 患者さん・ご家族・医療者が一体となったチーム医療が必要、4年前から看護師外来を開始する。



 同じ羽曳野医療センターの岡田看護師から「患者を支える看護師の役割」について講演があり、パネルディスカッションでは患者代表、家族代表の方の講演もありました。
 患者代表の方は、「今の自分を率直に語れる患者会に参加しましょう」と呼びかけられ、家族代表の方からは、「家族といっても、思いやりからかえって話をしなくなってしまうのはいけない、言葉にして、声に出して、話し合うことが大事である」と学びました。

 また、家族の方の、最後まで笑顔で接し、セデーションに関する深い後悔から生きる希望を持つまでのお話には涙しました。

 懇親会でも楽しく和やかに身の内話をし、皆さんとてもお元気でユーモアにあふれ、パワーを頂きました。肺がんの治療は本当に進んでいるのだと、皆さんのお声を聴いて実感しました。また楽しくお話ししましょうとお別れしました。

 患者会の皆さんは、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤の画期的な進歩で、強く生きる希望を持ってらっしゃる方ばかりでした。そして、分子標的薬等にも、辛い副作用があることを聞き、薬剤師として自分のすべきことは、治療進行中の緩和医療としての抗がん剤副作用対策の情報発信ではないかと思いました。つたないブログですが、これから、学会等の情報から、抗がん剤副作用対策に焦点を当てていければと思っています。                                  ぴのこ拝

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慢性心不全患者の緩和ケア

国立循環器病研究センター 看護部

急性・重症患者看護専門看護師 高田弥寿子先生

日本緩和医療学会第24回教育セミナーより(4)

Ⅰ.慢性心不全における緩和ケアの動向

 慢性心不全の人口動態は、2025年では120万人/年の罹患者と15万人/年の死亡者数と推測され、予防と終末ケアをしっかり取り組む必要がある。
1年生存率は50-60%、5年生存率は25-30%でがんと同様に進行性の予後不良疾患である。
 
 米国心臓学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)のガイドライン2013年の改定内容では、Palliative Care for Patients With HF として5本の柱が推奨されている
①チームケアの重要性:医師・看護師・薬剤師・介護士・栄養士・理学療法士・医療ソーシャルワーカーの連携
②適切な症状のアセスメントとマネジメント
③心理・社会的苦痛の緩和
④早期からの意思決定支援(ACP:Advance Care Planningの推進)
⑤家族ケア
 
 Early Palliative Careの効果は、進行した転移性がん患者を対象としたRCTでは、早期緩和ケア群は身体機能・メンタル・生命予後すべてを改善したが、慢性心不全患者の生命予後改善効果のエビデンスはまだなく、循環器医の理解を得るためにも必要である。

 疾患別に見た緩和ケアのニーズは、心血管病が38.47%、がんが34.01%、COPDが10.26%となっている。

 厚生労働省は平成29年9月4日、第7回「がん等における緩和ケアのさらなる推進に関する検討会」を開催し、循環器疾患の患者に対する緩和ケアの提供体制の在り方を検討するワーキンググループを設置した。
 それとともに慢性心不全の定義を改定した。
心不全とは、「心臓のポンプ機能の障害により体組織の代謝に見合う十分な血液を供給できない状態」➡「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気

Ⅱ.がんと慢性心不全の相違点

がんと慢性心不全では痛みの軌跡が異なる がんは終末期は1~2か月で急激に体調やADLが低下し、予後予測ができるが、心不全は増悪と寛解を繰り返し、予後予測(終末期の判断)が困難で再発のたびに心機能が低下し、最後は比較的急速である。症候性で、長期による療養行動遵守に伴う苦痛がある。

がんとは異なる心不全患者の病期の認識 心不全患者のほとんどは、病気や予後についての情報をほとんど知らされず、多くの心不全患者は、生命予後不良なことに気づいていない。増悪と寛解を繰り返す特性上、「今回もまたよくなるのではないか」と判断する。

 慢性心不全の緩和ケアでは、緩和ケア、ACPの導入のタイミングが難しい。がんにくらべて、治療の限界点が不明確なことと症状緩和としての治療が最後までActive Careとして残されるため、症状マネジメントが難しい。

Ⅲ慢性心不全における緩和ケアの開始時期

 緩和ケアは患者の苦痛の訴えが生じたときから始まる。意思決定支援は心不全の症状があらわれたときから考慮し、全人的苦痛緩和は苦痛の出現時から行い、悲嘆ケアは終末期が近づいた時期から行う。

Ⅳ.慢性心不全における症状マネジメントのポイントと主要症状のマネジメント

がん・心臓病の終末期における症状発現率

症状 がん(%) 心臓病(%)
呼吸困難 10~70 60~88
倦怠感 32~90 69~82
疼痛 35~96 41~77

呼吸困難・倦怠感・疼痛は非がん患者の50%にみられる3大主要症状である。特に心不全患者は、COPDと同様、呼吸困難の罹患率が高い。ほとんどの患者は、複数の症状を知覚している。

呼吸困難に対する症状マネジメント

`病期 1:症状出現 2:症状安定 3:心機能低下 4:難治性症状 5:終末期
薬物療法(ACE,β遮断薬、利尿) + + + + +
運動療法 + + + +
睡眠呼吸障害(CPAP,酸素) + + +
緊急措置(オピオイド + +
オピオイド抗不安薬)酸素吸入 +

薬物療法
 オピオイドは、モルヒネしかエビデンスがなく他のオピオイドは今のところ使用できていない。モルヒネの作用は、化学受容体の過感受性の軽減による異常換気パターンの改善である。副作用発現最小限で、効果がはっきりと評価できる。経口用モルヒネ2.5~5mg(4時間毎投与)
 
 不安・パニックによる呼吸困難なら長時間作用型ベンゾジアゼピン系薬剤:ロラゼパムなどを用いる。

 経口できなくなると塩酸モルヒネ投与プロトコル(持続静注)
  ①塩酸モルヒネ10mg/日、持続静注開始(eGFR<30ml/分の場合、5mg/日で開始)
  ②呼吸回数10回/分を維持。8回未満で投与量漸減 
  ③安静時呼吸困難感の強い場合1時間量早送り
  ④安静時呼吸困難感が強く、有害事象、傾眠傾向が認められない場合、24時間毎に1.5倍まで増量可
  ⑤最大容量 60mg/日

疼痛のマネジメント:薬物療法

 WHO三段階除痛ラダーのなかで、心不全にはNSAIDsは相対性禁忌(体型貯留による心不全の悪化、腎機能の悪化)三環系抗うつ薬も相対性禁忌である。疼痛が心臓性か非心臓性かを評価する。また神経障害性疼痛、侵害性疼痛、心因性疼痛などの痛みの性質に応じたマネジメントも重要である。

倦怠感のマネジメント、

 倦怠感のマネジメントは、難治性、治療抵抗性で一番治療が難しい。原因を評価する(利尿剤過多、低カリウム血症、睡眠障害、うつ、貧血等)。体液貯留のため、ステロイドや黄体ホルモンは回避する。

まとめ

 慢性心不全の緩和ケアは、心不全の標準的な治療が適切におこなわれていることが前提である。心不全治療と緩和ケアの比重を常に検討し、緩和ケアの目標を患者・家族と共有する。症状マネジメントの際の薬物療法はがんの症状マネジメントに準拠しながらも、病態を悪化させる薬剤があるため留意点を知っておく必要がある。
                  以上です。

 国が在宅(施設含む)を推進している以上、薬剤師としても生き残りをかけて、在宅医療チームの一員として活躍せねばなりません。在宅といってもがんに限らず、いろんな疾患があり、その薬物療法には多種にわたる留意点があります。薬剤師にとって常識なことが、在宅医療にとって非常に重要なポイントであることも起こりうるでしょう。医療分野における変化に応じて、アンテナを張り、常に研鑽に努めることが大事だなと思っています。
                             ぴのこ拝  

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免疫チェックポイント阻害薬の有害事象

早期発見・早期治療に向けて
国立がん研究センター東病院 薬剤部 野村久祥先生

日本緩和医療学会第23回教育セミナーより (3)

1.免疫チェックポイント阻害薬について

 がん治療の基本戦力は、
①外科的手術②放射線治療抗がん剤&分子標的薬④がん免疫療法 であり、がん免疫療法はがん治療の第4の柱である。
今後多くの疾患で使用されることは必須。

免疫チェックポイント阻害剤 ・PD-1阻害剤、ニボルマブオプジーボペムブロリズマブ(キイトルーダ)
・PD-L1阻害剤 アテゾリズマブ(テセントリク)
・CTLA-4阻害剤 イピリマブ(ヤーボイ)

 免疫チェックポイント阻害薬は一部の症例で効果が出るまでに時間がかかることがあるが、その効果が長く続く症例もある。

2.免疫チェックポイント阻害薬の有害事象マネジメントについて

 免疫チェックポイント阻害薬による有害事象は従来の化学療法とは全く異なり、非特異的に活性化した免疫により引き起こされることから、
免疫関連有害事象(immune-related adverse events:irAE)と呼ばれる。

irAEに対する副作用マネジメントでは
予防➡②予測➡③気付き➡④治療➡⑤監視➡①へ のサイクルが必要

①予防

㋐irAEの発現範囲を知ること㋑危険因子の確認㋒患者や医療提供者への情報提供
 ㋐irAEの発現範囲
  消化器症状・・下痢、血便、激しい腹痛
  内分泌系・・倦怠感、体重減少、吐き気、嘔吐、口渇や食欲不振、多尿
  皮膚症状・・広範囲の皮疹、ひどい痒み
  呼吸器系・・息切れ、咳
  神経系・・頭痛、意識障害、筋力低下、麻痺
  筋肉痛・関節痛、不明熱、出血性症候群、視野狭窄
 ㋑危険因子の確認
  患者や家族の自己免疫疾患の有無
  腫瘍性浸潤の有無
  日和見感染
  併用薬や職業性曝露
 ㋒患者や医療提供者への情報提供
  免疫チェックポイント阻害薬の10%以上の副作用を知らせておく。
  ニボルマブオプジーボ)倦怠感、皮疹、搔痒、下痢、悪心
  ペンブロリズマブ(キイトルーダ)下痢、悪心、搔痒、皮疹、関節痛、倦怠感
  イピリムマブ(ヤーボイ)下痢、皮疹、搔痒、倦怠感、悪心・嘔吐、食欲不振、腹痛


ニボルマブとイピリムマブによるirAEの頻度

ニボルマブ(N=313) All grade Grade 3/4 イピリマブ(N=311) All grade Grade 3/4
全てのAE 99.4% 43.5% 99.0% 55.6%
下痢 19.2% 2.2% 33.1% 6.1%
倦怠感 34.2% 1.3% 28.0% 1.0%
皮疹 25.9% 0.6% 32.8% 1.9%
嘔気 13.1% 0% 16.1% 0.6%
嘔吐 6.4% 0.3% 7.4% 0.3%
食欲減退 10.9% 0% 12.5% 0.3%
甲状腺低下 8.6% 0% 4.2% 0%
腸炎 1.3% 0.6% 11.6% 8.7%
頭痛 7.3% 0% 7.7% 0.3%
呼吸困難 4.5% 0.3% 4.2% 0%
治療中断 7.7% 5.1% 14.8% 13.2%

➡②予測

 免疫治療開始前に、投与中の症状の変化に気が付くために、Base line の症状や検査値を把握しておく
 
Base lineの確認項目・・通常のL/Dセット、Ca、IP、Mg、アミラーゼ、Glu、 HCVHIVスクリーニング、HBs抗原、HCV-RNA定量/リアル、TSH・FT3・FT4、HbA1c、KL-6(TSH・FT3・FT4に異常値があれば事前にコンサルト)・検尿(尿ケトン体)・身体所見:胸部聴診(ラ音の聴取)・DMの既往の確認・甲状腺疾患の既往及び家族歴を確認・排便回数・画像検査(胸部X線、胸部CT)
 免疫治療終了後・・投与終了後、数週間から数か月経過してから副作用が発現することがあるため、本剤の投与終了後にも副作用の発現に十分に注意する。

➡④治療

irAEに対する治療アルゴリズム
 Grade1またはGrade2・・治療は継続し経過観察。必要に応じて支持療法
 1週間以上続くGrade2orGrade3・・倦怠感以外は治療中断、倦怠感➡原因調査、プレドニゾロンの投与(G2:0.5/1.0mg/kg, G3:1-2mg/kg),、内分泌異常:ホルモン補充療法
 Grade4以上・・緊急入院、ステロイド全身投与、輸液など必要な全身治療

3.免疫チェックポイント阻害薬の有害事象マネジメント体制の構築

 外来化学療法ホットライン(電話フォローアップ)を看護師と薬剤師で行い、コンサルト医師を決めておく。

コンサルトタイミングの例

疾患名 コンサルトタイミング
間質性肺炎 IPが疑われる場合(対処:胸部CT画像を放射線科へ➡呼吸器内科医へ)
腸炎・下痢 Grade2発現時(・下痢:ベースラインと比べて4~6回/日の排便回数の増加・大腸炎:粘液便または血便)
1型糖尿病 高血糖又は血糖値の異常(FBS120mg/dl以上または随時血糖200mg/dl以上)・ケトーシスまたはケトアシドーシスの可能性が高く、特に意識障害を認める場合
肝機能障害・肝炎 ・Grade2の肝障害に対して対処したが5~7日を超えて肝機能が改善しない又は悪化   ・Grade3~4に対して対処したが3~5日を超えて改善しない又は悪化


 がん免疫療法は、第4の治療として幅広い疾患で使用される時代になり、今後も多くの疾患で使用されることが予想される。いままでのがん薬物療法の副作用対策は、予防による副作用マネジメントが中心であったが、免疫チェックポイント阻害薬は、いつどんな時にどんな副作用が出るかわからない。そのためにも、早期発見、早期治療につなげられる医療体制を構築することが重要である。 
                          以上です。

 オプジーボが2014年9月に、根治切除不能悪性黒色腫に保険適応されてから、もうすぐ4年になろうとしています。その間に免疫チェックポイント阻害薬は適応範囲を広げ、がん治療の第4の柱に成長してきました。その薬価の高額化の問題もさることながら、irAEや治療のやめどきの難しさ等がクローズアップされています。しかし、治療の2nd line、3rd line として、がん患者の希望の薬であることには間違いありません。すべての患者さんが、有害事象なく安心して使用していけるよう、学ばねばならないと思っています。
                ぴのこ拝

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がん患者の神経障害性疼痛

和歌山県立医科大学麻酔科学教室 川股 知之先生

第24回日本緩和医療学会教育セミナーより(2)

原因による痛みの分類
痛みの種類 原因
侵害受容性痛 侵害受容器の活性化 打撲、やけど、手術操作による痛み、術後痛
神経障害性痛 神経系の機能異常 ヘルニア、視床
心因性 心理的な異常に由来 身体表現性障害

☆侵害受容性痛・・痛みの伝達系が正しく作動している。発生を抑制(NSAIDs)伝導を抑制(神経ブロック)伝達を抑制(オピオイド

神経障害性疼痛の特徴

☆痛みの伝達系が正しく作動していない。(例:腕神経叢引き抜き損傷、ヘルニア、脊柱管狭窄症、脳出血後痛、帯状疱疹後神経痛幻肢痛、糖尿病性神経障害、脊髄損傷後痛)
☆普段、経験しない痛み・歪んだ痛み(例:電気が走るような痛み、熱を持った痛み、しびれ痛み、ちょっとした刺激でも痛みが強い)
神経障害性疼痛に伴う症状(不眠、無気力、眠気、集中力低下、うつ症状、不安、食欲不振)
☆がんの痛みと神経障害性痛・・脊髄圧迫、がんの神経叢転移、化学療法誘起末梢神経障害による痛み、骨転移痛(骨転移痛患者の17%で神経障害性疼痛の痛みを訴える。痛みがより強)がん神経障害性痛では進行性に痛みが増強する。

神経障害性疼痛の治療

神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン(非がん)
第一選択薬 アミトリプチリン(抗うつ薬)デュロキセチン(抗うつ薬)プレガバリン(抗けいれん薬)
第二選択薬 ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液、トラマドール
第三選択薬 モルヒネオキシコドンフェンタニル、ブプレノルフィン
(非がんの神経障害性疼痛では、慢性化を踏まえてオピオイドは効果はあるが第三選択薬となっている。)

プレガバリン血漿タンパクと結合しない・肝臓で代謝を受けない・チトクロムP450分子を阻害しない・99%が未変化体のまま尿中に排泄される
①作用機序:カルシウムチャネルα2-δ ②容量:75mg/日を1日1-2分服、もしくは150mg/日を1日3回分服➡3-7日後に1日300mgまで増量、忍容性が認められる場合には3-7日おきに150mg/日ずつ増量➡最大投与量:600mg(繊維性筋痛症450mg)③治療効果判定:4週間 ④副作用:眠気、めまい、複視、体重増加 ⑤投与上の注意:腎機能障害患者(問題となる薬物相互作用は少ない)

プレガバリンの腎機能障害患者での投与

CCr 60>CCr>30 30>CCr>15 15>CCr HD(2日1回)
初期量(1日) 75mg分1・3 50mg分1・2 25mg分1 25mg
最大投与量(1日) 300mg分2・3 150mg分1・2 75mg分1 75mg

プレガバリンの神経障害性がん疼痛に対する効果
Gabapentin for Neuropathic Cancer Pain:A Randomized Controlled Trial the Gabapentin Cancer Pain Study Group J Cllin Oncol 2004;22:2909-17

Global Pain Shooting Pain Burning Pain Dysesthesial Pain Lancinating Pain
Gabapentin 7.0→4.60 6.0→3.76 3.3→2.17 6.4→4.28 6.0→4.91
Placebo 7.7→5.45 6.1→4.31 3.9→2.32 6.0→5.24 11.5→4.92

Gabapentinはすでにオピオイドを投与されている神経障害性がん疼痛の緩和に有効である
プレガバリンの化学療法誘起末梢神経障害性疼痛に対する効果
→有効性は認められていない➡効果のある方もいる、トライ&エラーで使っていくのも一つの方法

☆下行性疼痛抑制系に作用する鎮痛薬・・オピオイド抗うつ薬(TCA・SNRI)
 三環系抗うつ薬(アミトリプチリン
①作用機序:複数の作用機序 ②容量10mg就寝前1回投与➡3-7日おきに1日25㎎ずつ増量➡最大投与量150mg3× ③治療効果判定:6-8週間、最大投与量で2週間以上 ④副作用:眠気、めまい、排尿障害、口渇 ⑤投与上の注意:閉塞性緑内障心筋梗塞回復期
 SNRI(デュロキセチン
①作用機序:セロトニン/ノルアドレナリン再取り込み阻害 ②容量20mg/日を1日1回朝食後内服➡1週間以上の間隔をあけて、1日20mgずつ増量➡最大投与量;60mg ③治療効果判定;4週間 ③副作用:眠気、悪心、めまい、便秘など ⑤適応;慢性腰痛症、糖尿病性神経障害及び繊維性筋痛症に伴う疼痛

抗うつ薬はがんには保険適応しにくい。がん性神経傷害性疼痛にはオピオイドが一番効果がある。

Q&A
Q1がん患者の神経障害性疼痛に対してオピオイドが有効とのことだが、オピオイドの中で効果に差があるか?
A1現在のところオピオイドの鎮痛効果の違いに関する高いエビデンスはないが、オピオイドスイッチングによって鎮痛効果が改善する可能性はある。
                                                        以上です。


今回はがん患者・非がんの神経障害性疼痛に関するセミナーを取り上げました。骨転移痛患者の17%が神経障害性疼痛の痛みを訴え、痛みが強度なこと、がんではオピオイドが第一選択になります。非がんでは高齢化に伴い、脊柱管狭窄症、脳出血後痛、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性神経障害などの神経障害性疼痛が見られ、リリカやサインバルタが第一選択薬となっています。老化による神経障害性疼痛は今後ますます問題となり、処方も増えていくことでしょう。リリカの腎機能による調整、サインバルタの副作用等に留意して適正使用に努めたいと思います。
                          ぴのこ拝
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がん患者におけるせん妄のケア

 名古屋市立大学病院緩和ケア部

 名古屋市立大学大学院医学研究科 精神・認知・行動学分野  奥山 徹先生

 第23回日本緩和医療学会教育セミナーより (1)

 

 せん妄はがん患者において頻度が高く、様々な悪影響をもたらす。身体的原因の同定と除去、非薬物療法薬物療法、家族へのケア等の積極的なマネージメントを要する。予防に関する知見が集積しつつある。せん妄の原因も、せん妄への対応も多面的であり、多職種で取り組むべき問題であり、チーム医療の試金石となる。せん妄を合併しても、ご本人ご家族が安心・安全に適切な医療・ケアを受けられるように取り組むことが大切である。

 

せん妄とは

 

意識障害の原因≪感染、脱水、薬剤、貧血、電解質異常、術後炎症など≫があり

 ⇒脳の機能低下が起こる(意識の混濁)≪認知機能障害・思考障害・集中力低下≫

   →睡眠覚醒リズム障害

   →意欲(・興奮・意欲低下・活動低下) →幻覚(・幻視・幻覚・妄想)

   →感情の問題(・不安・抑うつ・怒り・高揚感)

せん妄のサブタイピングで活動型と低活動型に分けられる。

☆精神症状があれば、常にせん妄を鑑別する。せん妄を見逃して、抗うつ薬抗不安薬を使用すると、悪化する可能性がある。せん妄の中核症状は思考障害、注意・集中力低下⇒それを見落とさないことが大切

せん妄と認知症の鑑別 

 発症様式は、せん妄 急性、亜急性 認知症 慢性

 経過は、せん妄 一過性 、認知症 持続性

 意識は せん妄 混濁 認知症 正常  

 症状日内変動は せん妄 あり(夜間増悪) 、認知症 目立たない     

   

薬剤によるせん妄リスクの調査(Gaudeau,et al.J Clin Oncol 2005)

 対象は261名入院中のがん患者でせん妄を呈した17%の患者の原因を検討した結果、オピオイド抗不安薬ステロイドが有意に関連した。

 ベンゾジアゼピンロラゼパム換算2mg以上)(ハザード比2.04、

 95%CL1.05-3.97、p値0.04) 

 ステロイド(デキサメサゾン換算15mg以上)(2.67、1.18-6.03、0.02)

 オピオイドモルヒネ換算90mg以上)(2.12、1.09-4.13、0.03) 

 抗コリン薬(1.38、0.73-2.60、0.32)  

 

せん妄の治療

 

 まず第一に、

 原因の同定(せん妄がいつから始まったか、その直前の身体的変化、薬物の開始・増量など)と

 対応(身体的要因の除去、原因薬物の中止・変更(苦痛症状の緩和など))を行う。

☆非薬物療法として、

 認知刺激(1日3回、最近の出来事、昔の出来事を話し合う等)

 早期離床(1日3回の散歩、あるいは関節の可動等)、

 視力・聴力サポート(メガネ・拡大鏡・わかりやすいナースコール、使い慣れた日用品の使用等)、

 睡眠覚醒リズム(日光浴や明るい光の利用等)栄養・水分管理があげられる。

薬物療法抗精神病薬

 主たる効果が、

抗幻覚妄想として、ハロペリドール、リスペリドン、パリペリドン、オランザピン、アリピプラゾール、ペロスピロン、ブロナンセリン、

鎮静として、クロルプロマジン、クエチアピン,が使用されている。

 副作用として、重篤なものは悪性症候群、QT延長、致死性不整脈が表れることがあるので、使用前には心電図を確認する。

 糖尿病患者にはオランザピン、クエチアピンは禁忌。 

 ドーパミン遮断ハロペリドール)としてパーキンソン症候群アカシジア誤嚥、   コリン遮断クロルプロマジン、オランザピン)として、便秘、口渇、イレウス緑内障悪化、頻脈、

 アドレナリンα1-遮断(クロルプロマジン)として血圧低下、ふらつき、過鎮静 などがあげられる。

基本方針は抗精神病薬を単剤少量使用、効果を見て増量

 薬剤選択は、副作用プロフィールイレウス:抗コリンは避ける、糖尿病:非定型抗精神病薬を避ける、パーキンソン病:抗力価の薬物を避ける)と

服用方法(液剤、OD錠、点滴用剤等)、

せん妄症状(不穏が著しい:オランザピン、クエチアピンを用いる、低活動型:塩酸ドネペジルやアリピプラゾールが提唱されることもあるが、エビデンスは乏しい)による。

☆せん妄の初期薬物療法の例 

内服可能で糖尿病なし⇒クエチアピン(12.5)1錠眠前

     糖尿病あり⇒リスペリドン液0.5mg 眠前

 内服不可能⇒ハロペリドール0.5A生食100ml眠前 1時間で滴下 寝たら中止

 頓用指示からの開始も可、不眠・不穏時:就寝前と同じものを用意,1時間以上空けて、1日3回までを使用可とする 

終末期のせん妄ケア

 終末期であっても原因によっては改善可能であり採血などの実施を検討する。予後を考えてケアのゴールを話し合う(会話ができるvs苦痛がない等)。

 非薬物療法としては一人の人として敬意を払うケアを行い、薬物療法としては、標的症状を明確にして使用し、不眠、幻覚、興奮などは効果が期待できる。せん妄から持続鎮静への移行はなし崩しにしないようにする。せん妄の回復が困難(原因が臓器不全、脳転移)であれば、苦痛緩和を優先し、患者・家族の意向を把握して判断する。

遺族が医療者に望むせん妄ケア:遺族調査より

 以前と同じように接する(94%)患者が何を言いたいかを理解するよう努める(88%)家族に思いやりを持って接する(86%)日々の起こりうる経過について説明する(86%)患者の主観的世界を否定することなく尊重する(83%)せん妄への対応について家族と相談する(75%)認知症や心の病気ではないことを説明する(72%)家族と共にその場にいる(71%)

せん妄の予防

原因となりうる薬物の減量・中止

 オピオイドは、オピオイドスイッチングやオピオイド以外の疼痛コントロール方法を検討(神経ブロック等)し、ベンゾジアゼピン系薬物は、手術の場合、術前から止めておけるとよく、反跳性不眠に注意する。

特に眠剤について せん妄リスク(高齢、認知症、脳血管障害など)があっても不眠への対応が必要

ラメルテオンはせん妄予防に有効か?(Hatta K,et al,JAMA Psychiatry 2014)

  対象:65歳以上 身体的問題で入院67名

  方法:RCT7日間(一重盲検化)ラメルテオンvsプラセボ

  結果:ラメルテオン群でせん妄頻度減少(3%vs32%)

手術前に抗精神病薬予防内服(Teslyar P, et al.Psychosomatics 2013)

      メタアナライシス、5研究(N=1491)が包含、抗精神病薬群のプラセボに対するリスク比は0.51 (術中の過鎮静に注意が必要)

                               以上です。 

 

 今回はせん妄について深く学ぶことができました。私の実父も頭部外傷による脳出血で長期入院した折、せん妄で皆が悩まされました。確かに夜間がひどく、「家に帰る」と病棟の廊下を走ったりするので、やむなく拘束されていました。その姿を見るのは大変辛かったです。せん妄を克服することができたら、在宅医療の大きな進展につながるのではないかと思います。ラメルテオンやスボレキサントのせん妄予防の効果が早期に実証実用されることを願っています。     

                    ぴのこ拝

 

 

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がん患者を対象にした緩和ケア情報共有ツールを用いたシームレスな地域連携の試み

友松裕子(1)(2)、井戸智子(1)(3)、壁谷めぐみ(3)(4)、湯浅周(4)、古賀千秋(2)(3)(5)、長尾清治(3)、太田信吉(6)、伊奈研次(2)(3)(7)

名古屋記念病院(1)医療社会相談室(2)がん相談支援センター(3)緩和ケアチーム(4)薬剤部(5)看護部(7)化学療法科、愛知国際病院(6)外科

日本緩和医療学会 後悔論文 活動報告より(2)

 

余命が限られているがん患者にとっては、終末期を過ごす療養の場所を適切に選択することは極めて重要である。地域の緩和ケアに関わっている医療スタッフとの連携を深めるために、東名古屋在宅医療懇話会を組織し、緩和ケア情報共有ツールを作成した。緩和ケア情報シートを用いて当院から紹介した35例のうち、25例が慢性期病院に転院し、10例は在宅医療を受けた。死亡場所の内訳は、緩和ケア病棟が23人、自宅が6人、当院が4人であった。紹介先スタッフを対象とした質問紙を用いた調査を行ったところ、緩和ケア情報共有ツールの導入は、患者の予後や患者・家族の病識と説明内容に対する理解度合い、医療や予後に対する考えに関する情報を得ることに繋がり、緩和医療の質向上に有用であることが示された。本活動は、シームレスな緩和ケアの実現に貢献し、地域の医療スタッフが責任を分担して最適な緩和ケアを提供することを促進すると考えられた。

Palliat Care Res 2018:13(2):163-67 

Key Words:シームレスな緩和ケア、地域連携、情報共有ツール、在宅医療懇話会

 

勉強のために英訳も載せておきます。

Trial of Seamless Regional Cooperation in Palliative Care of Cancer Patients Using Communication Tools of Cooperation

 Regional cooperation in palliative medicine involves multidisciplinary team care.It is very important for cancer patients to choose an appropriate place of stay during their end-of-life period. As the Nagoya Memorial Hospital does not  have a palliative care ward, collaborating with other facilities offering palliative care and home care becomes pivotal. Therefore the Higashi-Nagoya home care social gathering was organized to improve communication and cooperation among regional health care professionals.Through discussions during this social gathering,the communication tools for cooperation in palliative care were outlined in November,2015. We reviewed the outcome of 35 patients referred from our hospital using the communication tools for cooperation in palliative care: 25 patients were referred to chronic care hospitals including palliative care facilities, and 10 patients received palliative care at home; 23 died in the palliative care ward, 6 died at home,and 4 died at our hospital.A questionnaire survey conducted among the community health care professionals revealed that the introduction of this tool would be useful in providing accurate information on the prognosis of patients,level of understanding between the patients and their family,and patients' views on life and death. Using the communication tool for communication would contribute to realizing seamless palliative care in the region surrounding our hospital,which would in turn lead to local team work and shared responsibilities to provide optimal palliative care.

Palliat Care Res 2018;13(2):163-67

KIey words:seamless palliative care,regional cooperation,communication tools for cooperation,home care social gathering

 

方法 緩和ケア情報共有ツール

 ①打診時・・緩和ケア打診シート(MSW)

 ②退院時・・緩和ケア情報シート*(医師、薬剤師、セラピスト、MSW 緩和ケアチーム)、診療情報提供書(医師)看護サマリ(看護師)

*緩和ケア情報シート

  医師 医療情報、予後予測〔Palliative Prognotic Index(PPI):生命予後の評価に用いられる基準:例)経口摂取、浮腫、安静時の呼吸困難、せん妄の有無等をチェック項目にし自動的にスコアが計算され6.5以上は予後が3週間未満となる可能性が高いと表示されるしくみを設計〕、疼痛管理(チェック方式)、身体・精神状況、日常生活自立度、病状・予後についての医師からの説明内容

  MSW 担当医からの説明に対する患者・家族の理解度を確認          

  薬剤師 麻薬・鎮痛補助薬以外の服薬状況、点滴の内容、かかりつけ薬局の情報

  セラピスト リハビリの状況

  緩和ケアチーム 患者の状況を身体的、精神的な問題と分けて記載

結語 緩和ケア病棟のない当院が、東名古屋在宅医療懇話会を組織し、「顔が見える」双方向性の地域連携をめざした。情報共有ツールを活用して地域の医療スタッフ間で患者についての情報を共有することは、多職種のチームワークを促し、各自が責任を持って最適な緩和医療を提供するのに役立つことが示唆された。

                             以上です。

 

名古屋記念病院の方々の退院時の連携についての素晴らしい取り組みですが、転載していて、病院の医師の退院時の書類量の多さに驚き、どんどんチェックシート化して簡便になったら良いな、疼痛管理等は薬剤師も参画できるのでは?と思いました。チェックシート等の図表の公開は、許可を得てということで、つたない文で申し訳ありません。

 

 国保が市町村から都道府県に移り、地域別診療報酬が始まろうとしています。一地方の費用対効果の素晴らしい取り組みを都道府県は率先して採用していくことでしょう。保険薬局の薬剤師は日々調剤報酬に向き合っているので、地域別診療報酬にも敏感です。ちょっとした費用対効果の取り組みを保険薬局も発信できたらいいな、若い人頑張って!(他力本願)と思う毎日です。     

                    ぴのこ拝

 

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